この記事では、平野啓一郎さんの小説『マチネの終わりに』について、そのテーマや登場人物、物語の魅力をさまざまな角度から掘り下げていきます。
マチネの終わりに 平野啓一郎・著
書誌情報
書名:マチネの終わりに
著者:平野啓一郎
出版社:毎日新聞出版/文春文庫/コルク
発売年月:単行本(毎日新聞出版) 2016年4月/文春文庫 2019年6月/電子書籍(コルク) 2019年6月
ページ数:単行本 416ページ/文春文庫 468ページ
大人の切ない恋物語
『マチネの終わりに』は、ロングセラーとなった平野啓一郎さんの恋愛小説。初出は毎日新聞朝刊およびnote、2015年3月から2016年1月までにて連載された。そして、2016年4月に毎日新聞出版から単行本が、2019年6月に文春文庫から文庫版が刊行された。電子書籍化もされている。平野啓一郎さんの『マチネの終わりに』は、第2回(2017年度)渡辺淳一文学賞受賞作。
世界的なクラシック・ギタリストの蒔野聡史と、国際舞台で活躍するジャーナリスト・小峰洋子。本作は、この魅力溢れる二人の恋物語である。世界で活躍できるような、特別な二人の恋物語であるが、心を打たれる作品であった。運命の出会いから始まった大人の切ない恋物語。
出会ったときの彼らの年齢は、蒔野聡史が38歳で、小峰洋子が40歳。蒔野聡史は独身であったが、小峰洋子にはフィアンセがいた。
2006年、コンサートを終えた蒔野聡史は、関係者から小峰洋子を紹介された。意気投合した二人は、連絡先を交換する。会話を重ねる度に、お互いに運命の人と、確信するようになる。愛情が高まる一方だが、二人には時間がない。
遂に蒔野聡史は、小峰洋子へ抑えられない愛の告白をし、小峰洋子もまたフィアンセとの婚約解消の決断をする。
そんな矢先、不運な出来事が重なってしまう。そして、悲痛な結果をもたらした。二人は、お互いに真相を知らないまま、それぞれの人生を送る。
もうやり直せないとしても、真相を知ることができたのは、救いになったと思う。漸く再会できたのは、五年半の歳月が流れてから。どのような言葉を交わしたのかは書かれていない。本作を読み終えてから、想像してみるとよいと思う。
妻がいて、子供が生まれていても、二人きりで会ったことは許されるだろう。大人の切ない恋物語として、幕を閉じた。
本筋は、切ない恋物語だが、この期間に世界で起こった出来事にも触れながら物語は進む。平野啓一郎さんは、本作の執筆にあたり、数多くの書籍を参考資料として読み込み、協力者への取材を重ねている。
それらも、本作の優れたところ。読み応えのある小説であった。
蒔野聡史と小峰洋子とが惹かれ合う理由だけでなく、特にジャーナリストである小峰洋子の視点は興味深い。結婚した経済学者・リチャードら、登場人物との会話などには考えさせられることが多い。
蒔野聡史もまた、超一流の芸術家でありながら、恩師への恩を決して忘れない人であり、周囲への気遣いができ、陽気なところが魅力的であった。
二人は、お互いを運命の人と感じ、精神的な面で確かめ合い、結婚することを願った。それを成し遂げようとする過程は、常識の範囲であったが、成し遂げられなかった。五年半の歳月が流れてから再会した二人には、話したいことが山ほどあったであろう。