小説

『神の子どもたちはみな踊る』村上春樹 阪神大震災直後の6つのエピソード【書評】

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村上春樹さんの短編小説集『神の子どもたちはみな踊る』は、2000年2月に新潮社から単行本として刊行された。6編が収録されており、文芸誌『新潮』の1999年8月号から12月号にかけて連載された5編と書下ろし1編から成る。本書の表題は連載5編のうちの1編。

1995年1月の阪神大震災から4年後に、文芸誌『新潮』に「地震のあとで」というタイトルで連載が始まった。各編において、阪神大震災に触れている。村上春樹さんは、小説家としての視座で6編の物語をつむぎ出した。

初出
連作『地震のあとで』その一~その六

「UFOが釧路に降りる」(『新潮』1999年8月号)
「アイロンのある風景」(同9月号)
「神の子どもたちはみな踊る」(同10月号)
「タイランド」(同11月号)
「かえるくん、東京を救う」(同12月号)
「蜂蜜パイ」(書下ろし)

登場人物は、直接の被災者とうわけではない。被災地から離れた場所で暮らしていて、何らかの影響を受けているが、全編を通して身の上話のような内容だ。また、震災直後の話ということを除くと6編に関連はなく、各物語の登場人物は無関係である。

「UFOが釧路に降りる」の主人公・小村は、秋葉原にある老舗オーディオ機器専門店のセールスマン。震災直後、小村の妻は5日のあいだテレビの前で震災の映像を黙ってにらむように見ていた。そして、5日後に手紙を残して家を出ていった。そして、はっきりとして理由は明かされずに離婚することになる。その理由については解釈の仕方が人によって違うかもしれないが、妻は小村に対して不満が鬱積していた。

「アイロンのある風景」の主人公・順子は、高校3年生の時に家出をし、茨城県の海岸の小さな町にあるコンビニの店員になった。その地についてほどなく知り合った、ふたつ年上の啓介と同棲している。順子は、コンビニの来店客である三宅さんと親しくなる。三宅さんは浜辺で流木を集めて焚き火をすることが趣味。順子は焚き火に思い入れがあった。

「神の子どもたちはみな踊る」の主人公・善也は、阿佐ヶ谷の賃貸マンションで母親と二人暮らし。彼は出版社に勤めている。彼の母親は、宗教団体の熱心な信者であり、布教活動なども行っていた。善也も小学校を卒業するまで、母親といっしょに布教活動に出かけていたが、中学校にあがってほどなく信仰を捨てた。この物語は善也の二日酔いの描写から始まるが、彼の母親は震災直後のボランティアのために被災地にいた。善也のほうはその夜、耳たぶの欠けた男を目にした。

「タイランド」の主人公・さつきは、甲状腺の病理医。冒頭はタイへ向かう飛行機の中。タイのバンコックで開催される甲状腺会議に参加する予定である。さつきは、休暇をとれたので、会議が終わってから近くのリゾート地に行って、一週間ばかり骨休めをすることにしていた。そして、迎えのリムジンの中で、さつきはタイ人のガイド兼運転手から神戸の大地震について、出身地や知人のことなどを尋ねられる。

「かえるくん、東京を救う」の主人公・片桐は信用金庫の新宿支店融資管理課の係長補佐。片桐がアパートの部屋に戻ると、巨大な蛙が待っていたという場面から始まる。空想的な話であり、夢の中で起こった出来事のようでもある。

「蜂蜜パイ」の冒頭は、熊のまさきちの話から始まる。これは、主人公の淳平が、大学から親しくしている女性・小夜子の娘で、4歳の沙羅に即席のお話を聞かせている場面。淳平は小説家。沙羅は、神戸の地震のニュースを見すぎたせいか、真夜中過ぎにヒステリーを起こして飛び起きることが、毎日のように続いていた。

巨大な蛙が突然現れる話から、シリアスな話までそれぞれの趣は異なるが、村上春樹さんの小説家としての視座とスタンスを感じることができた。

神の子どもたちはみな踊る/村上春樹
出典:Amazon
作品情報

書名:神の子どもたちはみな踊る
著者:村上春樹
出版社:新潮社
発行年月:2000年2月

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