黒澤明監督作品である『羅生門』は、1950年公開の白黒映画。
映画『羅生門』は、ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞、および米アカデミー賞名誉賞を受賞した作品です。
黒澤明監督や日本映画が、世界で評価される切っ掛けとなった作品として、知られています。
羅生門
映画作品情報
監督:黒澤明
脚本:黒澤明、橋本忍
原作:芥川龍之介
出演者:三船敏郎、京マチ子、森雅之、志村喬 ほか
製作年:1950年
配給:角川映画
劇場公開日:2008年11月29日
日本初公開:1950年8月26日
Blu-ray/DVD ほか
黒澤明監督映画『羅生門』の概要
黒澤明監督作品である『羅生門』は、1950(昭和25)年公開の白黒映画です。
脚本は黒澤明さんと橋本忍さん。
文豪、芥川龍之介氏(1892-1927)の二つの名作、『藪の中』と『羅生門』を基に、脚本が書かれました。
映画タイトルは『羅生門』ですが、あらすじは『藪の中』、つまり原作は『藪の中』。
映画『羅生門』は、ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞、および米アカデミー賞名誉賞を受賞した作品です。
黒澤明監督や日本映画が、世界で評価される切っ掛けとなった作品として、知られています。
羅生門は、古代日本の都城に建てられた正門のこと。舞台は、荒廃した平安時代。都の正門である羅生門でさえ、半壊した状態で放置されるほど、世の中は荒廃しています。
映画『羅生門』のあらすじ
物語のあらすじは、次のような内容です。
ある土砂降りの中、旅法師(千秋実さん)と杣売り(そまうり/志村喬さん)が、羅生門で雨宿りをしています。
杣とは、木を育てて材木を取る山、あるいは切り出した木や、切り出すことを職業にしている人のことです。
旅法師と杣売りの2人は、なぜか首を傾げながらしゃがみ込んでいます。
そこへ1人の下人(上田吉二郎さん)が、雨宿りのために、羅生門へ走り込んできました。
下人は、首を傾げながら自問自答している杣売りに対して、理由を聞こうと問いかけます。
そして下人の問いに、杣売りと旅法師の2人が答える形で、物語が始まるのです。
旅法師と杣売りは、ある事件の目撃者でした。
事件の当事者は、旅の途中で事件に遭遇した夫婦、および事件の発端となる盗賊の多襄丸(三船敏郎さん)の3人。
夫婦とは、死体で発見された武士・金沢武弘(森雅之さん)とその妻の真砂(京マチ子さん)。
当事者の3人と、目撃者や関係者が、検非違使の尋問に答える形で、物語は進みます。
しかし、検非違使の尋問に対する彼らの告白と証言は、全くと言っていいほど異なり、矛盾しています。
映画『羅生門』は芥川の小説『藪の中』に脚色を加えた作品
この『羅生門』という映画は、1922(大正11)年に発表された芥川龍之介氏の短編小説『藪の中』が原案です。
黒澤明監督は、小説『藪の中』に脚色を加え、さらに同じく芥川龍之介氏の『羅生門』の場面設定を加えました。
映画タイトルは『羅生門』ですが、物語のストーリーは小説『藪の中』を基にしています。
映画の脚本では、旅法師と杣売りが下人の問いに答える形で話が進む流れですが、これは小説『藪の中』には無い設定です。
小説『藪の中』のストーリーに、3人の男が語り合うための、舞台として羅生門が加えられました。
小説『藪の中』は、殺人および強姦事件の真相に迫ろうとする物語です。これは映画『羅生門』においても同じですが、黒澤明監督は結末やストーリー展開などに脚色を加えています。
小説『藪の中』は、『今昔物語集』巻二十九第二十三話「具妻行丹波国男 於大江山被縛語」が原典とされています。
芥川龍之介氏は、古典文学の『今昔物語集』や『宇治拾遺物語』の説話を題材にした王朝物を何作品か残しました。
この小説『藪の中』は、芥川龍之介氏の王朝物の最後の作品です。
小説『藪の中』の事件現場は、峠道から奥深い藪の中でした。
そのため芥川龍之介氏は、小説タイトルを「藪の中」としたのです。
現在の日本語で、言い分が食い違っていて真相が分からないことを、「藪の中」と言います。
これは、芥川龍之介氏の小説『藪の中』が由来です。
ただ映画『羅生門』では、最後に事件の真相が明かされます。
小説『藪の中』では、木を切り出すために山奥へ向かっていた木樵(映画では杣売り)が、死体を発見するという設定でした。
しかし映画『羅生門』では、杣売りが事件を目撃していたのです。
映画『羅生門』と芥川の小説『羅生門』は登場人物や物語展開が異なる
芥川龍之介氏が1915(大正4)年に発表した小説『羅生門』は、荒廃した都の羅生門が物語の舞台です。
小説『羅生門』では、ある若い下人が主人から暇を出され、途方に暮れた面持ちで、羅生門の下で佇む場面から始まります。
その頃の羅生門は、死人が放置されているという噂が流れていました。
実際に、下人が梯子を上がると、死人が捨てられていました。
下人は、その死人の中に、一人の老婆がいることに気づきます。
なんと、老婆は死人の髪の毛を抜いていたのです。
下人が老婆を責め立てると、鬘(かつら)を作るために抜いていると答えます。
そして、悪いことだとは分かっているが、生きるためには仕方がないと。
今、髪の毛を抜いている女は、生きるために蛇を魚といって売っていた。
自分も生きるために、髪の毛を抜いて鬘を作ろうとしていると。
そうすると下人は、生きるためにお前の衣服を奪い取ってもよいのか、と言います。
そして、実際に追剥をして立ち去りました。
それが、映画『羅生門』では、物語の最後に、全く異なる展開にして、結末に加えられています。
3人が羅生門で語り合っていると、赤ん坊の泣き声が聞こえてきます。
どうやら、親から置き去りにされたようです。
そこには、籠に入れられた赤ん坊と一緒に、大人用の着物が置かれていました。
下人は、着物を持ち去ろうと考えましたが、思い止まります。
そして赤ん坊を抱きかかえ、自分の子ども達と一緒に育てると言って立ち去るのです。
小説『羅生門』は、現在も国語の教科書に採用されているので、記憶にある人は多いでしょう。
芥川龍之介氏の『羅生門』は、『今昔物語集』を題材として執筆されたと考えられています。
『今昔物語集』本朝世俗部巻二十九第十八話「羅城門登上層見死人盗人語」を基に、巻三十一第三十一話「太刀帯陣売魚姫語」の一部を加えたとされています。
映画『羅生門』は芥川の書いた二つの名作が原典
映画『羅生門』は、芥川龍之介氏の書いた二つの名作、『藪の中』と『羅生門』を基に、脚本が書かれました。
近代文学の名作に、脚本家でもある黒澤明さんと、脚本家橋本忍さんの発想力が加わったのです。
芥川龍之介氏の短編小説『藪の中』と『羅生門』もまた、古典文学『今昔物語集』の説話を題材にしています。
多くの創作者は、過去の名作の影響を受けて、新しい作品を生み出してきました。
優れた文学作品や芸術作品には、過去の名作の優れた要素が受け継がれているのです。
黒澤明監督の映画
映画『羅生門』の公開は、1950年です。終戦後の混乱期にもかかわらず、世界的に評価される映画作品を制作し、公開しました。
この時期に公開された、『羅生門』『蜘蛛巣城』『赤ひげ』などの黒澤明監督映画は、ヒューマニズムの理念をメロドラマティクに映像化した作品でした。映画では、カメラ・アングルを上下左右へ移動させ、大胆な激しさによって、メロドラマ性を強調しています。