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『ティファニーで朝食を』トルーマン・カポーティ、村上春樹訳 ‐ 1958年発表の名作等【書評】

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この記事では、トルーマン・カポーティ氏(1924年 – 1984年)の中編小説集『ティファニーで朝食を』について、そのテーマや登場人物、物語の魅力をさまざまな角度から掘り下げていきます。

ティファニーで朝食を トルーマン・カポーティ 著 村上春樹 訳

ティファニーで朝食を(トルーマン・カポーティ, 村上春樹 訳, 新潮文庫)の表紙
出典:Amazon

書誌情報

書名:ティファニーで朝食を
著者:トルーマン・カポーティ
翻訳:村上春樹
出版社:新潮社
発売年月:文庫本 2008年11月/電子書籍 2020年7月
ページ数:288ページ

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電子書籍

1958年発表の名作等

中編小説『ティファニーで朝食を』(原題: Breakfast at Tiffany’s)は、アメリカ合衆国の作家トルーマン・カポーティ氏によって1958年に発表された作品。村上春樹氏の新訳で2008年に新潮社から刊行された作品集には、表題作のほか、短編が3作収められている。短編のタイトルは「花盛りの家」「ダイアモンドのギター」「クリスマスの思い出」。

目次
ティファニーで朝食を Breakfast at Tiffany’s
花盛りの家  House of Flowers
ダイアモンドのギター A Diamond Guitar
クリスマスの思い出 A Christmas Memory
訳者あとがき 村上春樹(※文庫、電子書籍)

中編小説「ティファニーで朝食を」の舞台は第二次世界大戦下のアメリカ。語り手は駆け出し小説家の「僕」。この青年については、作者カポーティ氏自身が重ねられていると考えてよいだろう。心のうちから姿まで多くの事が投影されているのかもしれない。
本作には自由奔放で、おそらく美しいヒロイン、ホリー・ゴライトリーのことが描かれている。このヒロインは実在する人物を混合し創り上げたキャラクターであり、たとえばカポーティ氏の母親であったり、かつての片思いの相手であったりするのかもしれない。幼少期のカポーティ氏の母親への記憶が反映されているようだ。その他は、カポーティ氏の社交界の友人たちと思われる。
この作品は映画化されているが、ホリー役をオードリー・ヘプバーン氏(1929年 – 1993年)、作家役をジョージ・ペパード氏(1928年 – 1994年)が演じた。ホリーはカポーティ氏が創り上げたキャラクターだが、とくに小説家の「僕」については、カポーティ氏とペパード氏の二人を比較してもイメージは重ならない。それも影響し、原作と映画では物語の展開にも違いがある。多くの原作と映画作品に言えることであって、それぞれの作品の魅力を味わい、楽しむべきことなのだろう。
カポーティ氏は、本作を第二のキャリアが始まった作品として位置付けている。村上春樹氏の訳者あとがきの中に、1964年の雑誌のインタビューでカポーティ氏が語った内容が記載されている。違うものの見方をし、違う文体を用いるようになった、と。それまでは若者がすらすらと書く早熟期のキャリア。大人の作家として、ひとつ上の段階に至った。
また、題材についても少年期の特異な体験とは違うもの、新しい題材を求めるようになった。村上春樹氏はカポーティ氏を天性の優れたストーリーテーラーと評している。体験したものごとから、生き生きとした物語を立ち上げることに長けていた、と。しかし、そのためには素材が必要。また、カポーティ氏はどこからでも自由に物語を創り上げていくタイプではなかった、と。
そして、次の段階で取り組んだ作品が「冷血」。カポーティ氏は、惨殺事件を5年余りの歳月を費やして徹底取材し、犯人が絞首刑に処せられるまでを見届けた。「冷血」はカポーティ氏に新たな名声をもたらした。カポーティ氏は、「冷血」をノンフィクション・ノヴェルと名付けたが、この手法は他の作家も実践するようになった。

短編「花盛りの家」の舞台は、ハイチの山奥の村および首都ポルトー・プランス。主人公はオティリーという女性。彼女の母親は亡くなっており、父親は入植した農園主であったが、彼女を残して本国フランスへ引き上げていた。農民の一家に育てられたオティリーのその後の人生と苦難、それを乗り越えていく姿が描かれている。

短編「ダイアモンドのギター」の舞台は、囚人の刑務施設。そこには、109人の白人と97人の黒人と1人の中国人が収容されたいることが、冒頭に示されている。
ミスタ・シェファーはその内のひとりで、彼は既に50歳になっていて、そのうちの17年をそこで過ごしてきた。彼は施設内で一目置かれる存在のようだ。
そして、新しい囚人が一人入ってきたことで、物語が急展開する。彼の名はティコ・フェオ、キューバ出身で金髪。所持品の中にギターがある。友情であると信じていたが、利用され、裏切られる。

短編「クリスマスの思い出」は、7歳の「僕」と遠縁のいとこで60を越えた女性との心温まる話。二人は親戚の人たちと暮らしている。

村上春樹氏の訳者あとがきの中では、イノセンスという言葉が多用されている。純粋なことや無邪気さを表す言葉だが、4編の物語には異なる趣で、登場人物が持つイノセンスが描かれている。

また、同じくあとがきの中で、村上春樹氏はカポーティ氏について、作者論のようなかたちで触れている。カポーティ氏の作品や文学全般に対する造詣を深めるのに参考になる内容であった。

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