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『ニムロッド』上田岳弘 ‐ 謎のメールの展開と三人の関係【書評】

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この記事では、上田岳弘さんの小説『ニムロッド』について、そのテーマや登場人物、物語の魅力をさまざまな角度から掘り下げていきます。

ニムロッド 上田岳弘・著

ニムロッド(上田岳弘, 講談社文庫)の表紙
出典:Amazon

書誌情報

書名:ニムロッド
著者:上田岳弘
出版社:講談社
発売年月:単行本 2019年1月/文庫本 2021年2月/電子書籍 2021年2月
ページ数:単行本 146ページ/文庫本 176ページ
初出:『群像』2018年12月号

紙書籍

電子書籍

謎のメールの展開と三人の関係

上田岳弘さんの小説『ニムロッド』は、第160回芥川賞受賞作である。初出は講談社の月間文芸誌「群像」の2018年12月号。2019年1月に講談社から単行本が刊行された。単行本で136ページの分量である。上田岳弘さんは1979年、兵庫県生まれ。
本作は、仮想通貨のビットコインなどを題材にして、情報化社会をどう生きるか、といったとことをテーマにしている。本作の主人公の名前は、ビットコインの創業者のサトシ・ナカモトと同姓同名である。

本作の主人公、中本哲史(なかもと・さとし)は38歳の独身男性。中本は、法人向けにサーバーの保守サービスを提供している、50人程度の規模の会社に勤めている。この会社は、東京本社のほか、名古屋にも拠点がある。中本の所属は、東京本社のシステムサポート部。
そして、社長の一存で新設された課の課長に就任した。その課の業務は、ビットコインを採掘すること。ただし課員は中本一人。社長からは、システムサポートの業務を続けながら、ビットコインの採掘をするように指示された。

その他の主な登場人物は、中本の恋人の田久保紀子と、中本の会社の先輩の荷室仁。
田久保紀子は37歳で離婚歴があり、外資系証券会社に勤務するバリバリのキャリアウーマンといた印象の女性。海外出張をしたり、自宅に帰らずホテルに泊まったりするような生活を送っている。収入に関しても中本よりかなり多そうだ。
荷室仁は中本より一つ上で会社の先輩。本作のタイトルであるニムロッドが彼の自称で、会社のメールの@マークの前やLINEのアカウントをnimrodにしている。荷室は、東京本社に勤務していたが、鬱病となり、実家のある名古屋へ異動させてもらった。荷室は、作家を目指していて、本作の展開にも大きく関係している。

中本と荷室は、二人が東京本社勤務のときは頻繁に一緒に飲みにいく仲だった。荷室が名古屋勤務になってからも、メールやLINEで連絡を取り合っている。
そして、ニムロッドこと荷室から中本へ、「駄目な飛行機コレクション」という、謎のメールが送られ始める。
ニムロッドは、「NAVERまとめ」を元ネタにしてメールを作成している。上田岳弘さんもまた、「NAVERまとめ」に掲載されていた、実在した「ダメな飛行機コレクション」から引用し、それと一緒に解説文を書いた。

ニムロッドが中本に謎のメールを送り始めた理由はすぐに明かされる。ニムロッドが中本へ送り続けたメールは、ニムロッドの中本とのコミュニケーションであり、創作の場でもあった。
ニムロッドこと荷室のメールの内容と、中本哲史・田久保紀子・荷室仁の三人の関係が、本作の山場となって展開する。

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