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『1R1分34秒』町屋良平 ‐ 主人公の「ぼく」の人間性【書評】

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この記事では、町屋良平さんの小説『1R1分34秒』について、そのテーマや登場人物、物語の魅力をさまざまな角度から掘り下げていきます。

1R1分34秒 町屋良平・著

1R1分34秒(町屋良平, 新潮社)の表紙
出典:Amazon

書誌情報

書名:1R1分34秒
著者:町屋良平
出版社:新潮社
発売年月:単行本 2019年1月

主人公の「ぼく」の人間性

町屋良平さんの小説『1R1分34秒』は、第160回芥川賞受賞作である。初出は新潮社が発行している月間文芸誌『新潮』の2018年11月号。2019年1月に新潮社から単行本が刊行された。単行本で140ページの分量である。町屋良平さんは1983年、東京都生まれ。
タイトルの「1R1分34秒」は、ボクシングの試合で勝敗が決まった時間である。結末にもつながるので、詳細は記述しない。

主人公の「ぼく」の人間性をどう思いますか?

主人公の「ぼく」は21歳のプロボクサー。C級ライセンスを取得し、四回戦の試合に出場している。パチンコ店員のアルバイトもしている。冒頭での戦績は1勝2敗1分。デビュー戦は、初回KO勝ちであったが、その後の戦績は振るわない。
プロボクサーのライセンスは、A級、B級、C級に分かれ、C級は4ラウンドで戦う。B級は6ラウンド、A級は8ラウンド以上と、試合のラウンド数は増えていく。10回戦や12回戦に出場するには、8回戦で勝たなければならないというシステムである。10回戦以上になれば、日本ランキングの対象者にもなる。それから、女子の試合は10回戦まで。

「ぼく」は、研究肌のボクサーであり、ビデオをみて対戦相手を分析する。そこまでは、特に変わったことではないが、Google Mapsで対戦相手のジム周辺の環境を調べたり、ブログやSNSなどをチェックしたりする。

「ぼく」は、自分のことを次のように自己分析している。

ぼくは誰とも仲よくなんてしたくない。さみしがり屋のくせに、ひとに気をつかわれるのはいやだ。プライドばかり邪魔をする。

これは、主人公の「ぼく」が、公園で遊んでいる子どもたちを眺めているときの内面の描写。彼は、子どもの頃から素直さに欠け、いまに至っているようだ。

「ぼく」には、唯一の友だちがいる。彼は大学生だが、読書と映画鑑賞と、iPhoneを使った撮影で一日を終えている。「ぼく」は友だちの撮影には素直につき合い、インタビューに答えたり、依頼されればシャドーボクシングをしたりする。友だちは一カ月もひとと話さないこともざらという。「ぼく」と似通ったところがあるのかもしれない。
「ぼく」は、その唯一の友だちに誘われて、よく美術館に行く。友だちは、オブジェのような作品が好きなようだ。

物語の中で、人間関係における大きな出来事が2つある。一つは、フィットネス目的の体験希望者である、女性のふたり組の一人と親しくなったこと。もう一つは、現役の六回戦ボクサーでもある、ジムの先輩にトレーナーについてもらうようになったこと。

体験希望者の片方の女のこが好みのタイプで、「ぼく」はフードに電話番号を入れた。「ぼく」は、そういった行動はとれるようだ。

新しいトレーナーは、四歳ぐらい年上で、ウメキチという渾名。「ぼく」は彼の本名を知らない。今まで指導してもらっていた、ジムの本来のトレーナーからこの話を言われたのは、プロ5戦目の試合でKO負けしたあと。「ぼく」は、いぶかしがり、トレーナーに見捨てられた気がした。

ウメキチは、面倒見がよく、弁当まで用意してくれる。それに対して、「ぼく」は素直ぶりながらも、本心は感謝できない。そして、ある日のウメキチとのやり取りを境に、「ぼく」は何を思ったのか、ウメキチとの会話がタメ口になる。
そのような状況でも、「ぼく」とウメキチの、ボクサーとトレーナーという関係は続き、次の試合を迎える。

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