この記事では、村上春樹さんの小説『羊をめぐる冒険』について、そのテーマや登場人物、物語の魅力をさまざまな角度から掘り下げていきます。
羊をめぐる冒険 村上春樹・著
書誌情報
書名:羊をめぐる冒険
著者:村上春樹
出版:講談社
発売年月:単行本 1982年10月/文庫本 1985年10月/文庫本新デザイン 2004年11月
ページ数:単行本 405ページ/文庫本(上巻)246ページ/文庫本(下巻)232ページ /文庫本新デザイン(上巻)272ページ/文庫本新デザイン(下巻)264ページ
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主人公の「僕」は鼠と再会できるのか
『羊をめぐる冒険』は、村上春樹さんの3作目の長編小説。1982年に『群像』8月号に掲載され、同年10月に講談社より単行本化された。ページ数は405ページの分量。1985年と2004年に講談社から上下巻、二分冊で文庫本が刊行されている。
この作品は、野間三賞の一つである野間文芸新人賞の第4回受賞作である。野間三賞とは、「野間文芸賞」「野間文芸新人賞」「野間児童文芸賞」の三賞のこと。
村上春樹さんは、1979年に『風の歌を聴け』(講談社)で作家デビューを果たし、1980年に『1973年のピンボール』(講談社)を発表している。そして1982年に『羊をめぐる冒険』を発表した。これら三作には、同一人物である主人公の「僕」と、「鼠」と呼ばれる男が登場する。そのため、初期三部作あるいは鼠三部作と呼ばれている。
長篇小説『羊をめぐる冒険』は、第1章から第8章まであり、さらに節を設ける章立てだ。章と節には見出しがあり、そして最後をエピローグで締め括っている。
第1章は、回想する場面であり、20歳の頃に知り合った女の子のことが書かれている。第2章は、その女の子の葬儀から自宅に帰ってくる場面。見出しは、第1章が1970/11/25で、第2章が1978/7月となっている。
彼女は16の歳に家を飛び出した。1969年の秋、主人公の「僕」は20歳で彼女は17歳だった。彼女は、誰とでも寝る女の子。正しくは誰とでもというわけではない。主人公の「僕」は69年の冬から70年の夏にかけて、彼女とは殆ど顔を合せなかった。70年の秋、主人公の「僕」は、はじめて彼女と寝た。
そして1978年7月、彼女は26歳で死んだ。
主人公の「僕」は4年間連れ添った妻と離婚することになった。大学生のときに知り合った女の子の葬儀が終わり、アパートに帰ると、離婚したばかりの妻がいた。元妻は離婚の手続きを終え、部屋の片付けをすべて終えたところだった。「僕」は何カ月かで30歳に、元妻は26歳になろうとしていた。主人公の「僕」の口癖は、「やれやれ」。
主人公の「僕」が29歳になったとき、故郷の町並みは大きく変わっていた。変わったのは町並みだけでなく、人も社会も変わっていた。主人公も読者も、時の流れを感じる。
主人公の「僕」には、離婚して2カ月後に、ガール・フレンドができた。そのガール・フレンドは、なぜか2つのキーワード「羊」と「冒険」という言葉を口にする。
さらに主人公の「僕」の下に、鼠からの手紙が届いた。昔の住所宛に送っているので、回送の貼り紙がふたつ付いている。鼠は差出人の住所を書いていない。
2番目の手紙には、2つの頼みごとが書かれていた。一つは、ジェイズ・バーの店主ジェイと、以前付き合っていた女の子への伝言。もう一つは、同封された羊の写真に関すること。
主人公の「僕」は、鼠が送ってきた羊の写真を、生命保険会社のPR誌に使った。その写真が、ある組織の幹部の目に留まり、主人公の「僕」は奇妙な出来事に巻き込まれてゆく。
その写真の羊の群れの中に、特別な羊がいた。
組織のナンバー2に聞かされた話は、馬鹿げているようだが本気のようだ。
こうして羊をめぐる冒険がはじまり、物語の謎は徐々に明かされてゆく。
物語の最後で主人公の「僕」は、とても悲しい出来事が起きていたことを知る。
この小説は、別れや死をテーマのひとつにしているようだ。
村上春樹さんらしいシュールな長篇小説だった。