この記事では、村上春樹さんの小説『ダンス・ダンス・ダンス』について、そのテーマや登場人物、物語の魅力をさまざまな角度から掘り下げていきます。
ダンス・ダンス・ダンス 村上春樹 著
書誌情報
著者:村上春樹
発行:講談社
発売年月:単行本 1988年10月/文庫本 1991年12月/文庫本新装版 2004年10月/電子書籍 2018年8月
ページ数:単行本上巻 346ページ/単行本下巻 340ページ/文庫本新装版上巻 424ページ/文庫本新装版下巻 416ページ
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34歳になった主人公の「僕」
村上春樹さんの小説『ダンス・ダンス・ダンス』は、1988年10月に講談社から、上下巻で刊行された書下ろしの長編小説。本作は、1979年から1982年にかけて刊行された、村上春樹さんの初期三部作の続編だ。主人公の「僕」は、原則的に同一人物である。
村上春樹さんは、1979年に『風の歌を聴け』(講談社)で作家デビューを果たし、1980年に『1973年のピンボール』(講談社)、1982年に『羊をめぐる冒険』(講談社)を発表した。これら三作には、同一人物である主人公の「僕」と、その友人で「鼠」と呼ばれる男が登場する。そのため初期三部作は、鼠三部作とも呼ばれている。
『ダンス・ダンス・ダンス』では、鼠について触れることがあっても登場はしない。理由は『羊をめぐる冒険』を読んだ方なら分かるだろうし、本作の冒頭でも触れている。鼠は死んだのだ。
『ダンス・ダンス・ダンス』は、村上春樹さんの6作目の長編小説。初期三部作との間に、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(新潮社)と『ノルウェイの森』(講談社)が刊行されている。
三部作『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』『羊をめぐる冒険』の舞台は1970年代だった。『ダンス・ダンス・ダンス』の舞台は1980年代初頭。『羊をめぐる冒険』から4年が経った、1983年3月に物語は始まる。『ダンス・ダンス・ダンス』では、高度資本主義社会という言葉がキーワードのひとつになっている。
主人公の「僕」は、4年前に友人と共同で経営していた会社を辞めていた。半年ばかりぼんやりと過ごした後の3年半は、フリーライターの仕事を続けている。主人公の「僕」は、この仕事を文化的雪かきと称した。
主人公の「僕」は、「やれやれ」と「さて」という言葉を、頭の中でよく浮かべ、実際に口にすることも多い。
主人公の「僕」は、4年前に起こった一連の出来事を忘れられない。4年前に様々な出来事があり、主人公は死別と離別を経験した。
『ダンス・ダンス・ダンス』においても、主人公の周りで死があるが、出会いや再会もある。
小説の書き出しは次の一文で始まる。
よくいるかホテルの夢をみる
主人公の「僕」は、4年前にある特別な目的のために、ガール・フレンドと北海道を訪れ、1週間ほどホテルに滞在した。正式名称は「ドルフィン・ホテル」だが、二人は「いるかホテル」と呼んだ。いるかホテルは札幌の一角にある。
実は主人公の「僕」は、4年前に付き合っていたガール・フレンドの名前を知らない。だが主人公の「僕」は彼女を探し求める。
『羊をめぐる冒険』では、主人公も読者も、そのガール・フレンドの名前が分からなかった。『ダンス・ダンス・ダンス』には、彼女の名前がキキであると書かれている。キキという呼び名は、彼女が高級コールガールをしていたときの源氏名だ。
4年前に主人公の「僕」は、キキと一緒に北海道の山奥にある別荘を訪れたが、彼女は黙って姿を消してしまい、消息不明だった。
主人公の「僕」は、1983年3月の始め、東京を離れ、飛行機で北海道へ向かう。いるかホテルに導かれるように。「ドルフィン・ホテル」は、超高級ホテルに建て替えられていた。「ドルフィン・ホテル」に滞在中、主人公の「僕」は『羊をめぐる冒険』で登場した羊男と再会する。主人公の「僕」が羊男と初めて会ったのは、北海道の山奥の別荘だった。
主人公の「僕」は、これまで色々なものを失ってきた。いったいどうすればよいのかという主人公の問いに、羊男は次のように言った。
踊るんだよ
主人公の「僕」は札幌滞在中に、中学時代の同級生が出演する映画を観るために、映画館に入った。その映画館で上映されていた映画に、キキが出演していた。5分ほどのシーだが間違いなく彼女だ。
「僕」は、東京に戻り、俳優になった中学時代の同級生・五反田君に接触することにした。
主人公の「僕」は、いるかホテルでフロントの女性と親しくなっていた。その繋がりで13歳の美少女・ユキを東京へ連れ帰る。そこには込み入った事情があった。その縁で、離婚したユキの両親とも繋がりができる。
『ダンス・ダンス・ダンス』では、こういった繋がりもテーマになっているようだ。
主人公の「僕」は、東京都と札幌、そしてハワイを舞台にし、大切なことを求めて、そして上手く生きていくために、ダンスのステップを踏む。ステップを間違えないように。