評論・随筆・その他

『映画ライターになる方法』まつかわゆま ‐ 文章上達のポイントを学ぶ【書評】

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ライターは、ライティングの対象となる産業を掘り下げて取材するため、基本的には得意とする専門分野がある。

この記事では、映画ライターとしての実績をお持ちの、まつかわゆま氏の著書『映画ライターになる方法』を紹介する。

映画ライターになる方法 まつかわゆま・著

映画ライターになる方法(まつかわゆま, 青弓社)の表紙
出典:Amazon

書誌情報

書名:映画ライターになる方法
著者:まつかわゆま
出版社:青弓社
発売年月:単行本 2005年8月, 電子書籍 2014年3月
ページ数:単行本 237ページ
Cコード:C0095(日本文学・評論・随筆・その他)

紙書籍

電子書籍

まつかわゆま氏の著書『映画ライターになる方法』について

まつかわゆま氏は、大学の人文学部で社会人類学を学び卒業したあと、女性誌編集者を経て映画ライターになった方だ。

紹介する本のタイトルは、『映画ライターになる方法』(青弓社,2005年)。執筆当時の2005年、まつかわゆま氏のライター歴はすでに20年になっていた。
まつかわゆま氏はその後も、大学院でドキュメンタリー映画を研究するなどし、2020年現在も現役の映画ライターとして活躍されている。

まつかわゆま氏は、『映画ライターになる方法』の中で、映画の鑑賞術から文章術・取材術、そして営業術までも披露している。この一冊で、映画ライターの仕事のことを一通り知ることができた。
本の構成は、第1章から第11章まであるが、第8章の「映画ライターの文章術」に書いてあることを中心に取り上げる。
映画ライターを目指している方はもちろん、他の分野のライターの方にも参考になるはずだ。

ライターのお手本はビジネス文書

映画ライターの文章は、小説家や文学者、映画を含む評論家の書く文章とは異なる。書く文章の種類にもよるが、コピーライターの書く文章やビジネス文書のほうが近いとのこと。理由は、対象となる読者が観客の予備軍であり、文章を書く目的が映画を見に来させることだから。

映画ライターを目指すなら、小説の書き方より、小論文の書き方やビジネス文書の書き方の方が参考になる。ビジネス文書は、趣旨を正確に伝えることを目的にし、一つの文が短くなるように組み立てて書く。ただし、それだけでは味気ない作文や感想文になってしまう。そこで参考にしたいのが、新聞記事の書き方。

作文や感想文では、起承転結や主語・述語をはっきりさせる。
新聞記事は、最初に結論を述べてから、説明の部分となる承を展開する。新聞記事では、ほとんどの場合、「私は」という主語を隠す。しかし新聞記事は、読んだ人が主語と述語が何であるかが確実に分かるように、気をつけて書かれている。新聞記事は、一つの文に主語や述語を一つずつにする。そして、一つひとつの文が短い。新聞記事は、短い文章のなかに、事実と記者の考察、それによって導き出した結論がある。
ただし新聞記事は、分かりやすくても、簡単でやさしい文章にはならない。ライターは、新聞記事のように分かりやすく主張しながら、読みやすくやさしく書かなければならない。そこで、ビジネス文書の書き方を、もう一度確認する。

ビジネス文書は、読み手の教養や知識を問わず、誰にでも理解しやすいような言葉と構成で書く必要がある。ライターは、ビジネス文書の書き方を基本とし、親しみやすさや共感を誘う書き方を加えなければならない。

そして、それぞれの媒体の読者が求める情報や知識を文章に入れる。必要な情報や知識は、深さと広さと方向が媒体ごとに異なるため、求めに応じて資料収集や取材が必要だ。

短い文章の場合は起承転結や5W1Hに拘らない

長い文章になると、起承転結や序破急などを守った方が書きやすい。長い文章の目安としては、個人差はあるが、著者である、まつかわゆま氏の場合、2000字を超えると長い原稿に感じるとのこと。

まつかわゆま氏が2000字以下の原稿を書くときに重視しているのは、「つかみ」とのこと。見出しと最初の数行が大事。
雑誌のような媒体の場合、興味を引いた記事や、必要な記事、目についた記事から読むことが多く、順番に全部読む人はあまりいない。
Web媒体になると、この傾向はさらに強まることが多くなる。

長い記事では、最初に基本情報を一言入れる必要があるが、短い文章であれば二段目以降に回しても構わない。最後に余裕があれば、結をもう一度つけて締めるが、文字数に余裕がなければ冒頭だけで結論を終えてもよい。言いたいことや面白いことを伝えるという目的は、冒頭のつかみだけで果たす。最後をきれいにまとめないことで、読者にバトンを渡す効果がある。意見を押し付けた印象も回避できる。

それから、短い記事では5W1Hの要素を全て入れる必要はない。
5W1Hとは、Who(だれが)When(いつ)、Where(どこで)、What(なにを)、Why(なぜ)、How(どのように)。5W1Hを意識して文章を構成すれば、主旨が明確になり、伝えたい情報を過不足なく盛り込むことができる。そのため5W1Hは、新聞記事やビジネスの場では大切にされる。

ただし、短い記事に5W1Hの全てを入れると、情報は盛りだくさんだが、読みにくい文章になってしまう。
それでは、官庁・企業・団体などが報道関係者向けに発表するプレスリリース。あるいは、それらの紹介文。

肝心なのは、ライターの意見だ。

短い記事であれば、「Who(だれが)、What(なにを)、How(どのように)」程度でよい。無理に5W1Hの要素を全て入れる必要はない。

「私は」と書き始めるのは子供の作文!?

よほど強調したいときや、特別な意見を述べるときを除いて、書き始めに「私は」を使うべきだはない。文章を書いているのは「私」なのだから、主体である私を隠しても主語は残る。主語と述語をきちんと把握することは、文章を書くときの基本。
書き言葉が話し言葉に近づくにつれて、主語・述語の関係という基本的なことがないがしろにされることがある。
言いたいことを盛り込もうとして、一つの文に主語や述語がたくさん入っている文がある。
曖昧にしておきたい場合、誰が何をといったことを、ぼかして話すことがある。

だが、何らかの意見を伝える文章が曖昧では困るのだ。
話し手にも、書き手にも責任がある。

読者の判断に任せたいときに、曖昧にしたり、問いかけたりすることがある。その場合でも、書き手には読者を導くという目的があるはずだ。

主体である書き手は、責任と自信を持って、意見を伝えるための文章を書くべき。

ライターが美文を求められることは少ない

文芸誌や映画評論誌などには、大学の教授が凝りに凝って書いたアカデミックな映画評論文が掲載されることがある。
しかしライターが依頼されるのは、一般誌や映画雑誌に掲載するための記事がほとんど。一般人が読む映画記事などでは、美文を書くことを求められることは少ない。
文字数の少ない記事で、凝った形容を使うことは、文字数の無駄になり、読み手にとって分かりにくくもなる。

ライターが一般誌や雑誌に記事を書くなら、ストレートな表現を用いる。例や形容も、具体的に身近なものを使うとよい。諺や故事成語、熟語などは、共通する教養とは限らないのだ。ライターが書く文章は、基本的にはビジネス文書と考えたほうがよいのかもしれない。

蘊蓄なども専門誌以外はお勧めできない。蘊蓄を語る場合も、その説明が必要になる。映画は過去の作品を模倣していることが多い。作り手や熱心なファンは、映画作品を浴びるほど見ているので、元ネタなどを分析したがる。しかし作品が面白いのは、オリジナルまで作り上げているから。
ライターが記事を書くときは、元ネタを褒めるよりも、新しい作品の面白さを伝えることが重要。
ただしプロとして当然知っておくべきことは、昔のことも勉強する必要がある。不勉強さを晒すことは避けたい。
知識をひけらかすのではなく、知識を使って新しいものを生み出すことが大切。

エッセイやコラムでは語尾の混合が許される

正しい文章の書き方のひとつに、語尾の統一がある。「です・ます調」や「だ・である調」のことだ。論文やビジネス文書では、語尾を混合しない。

しかし、エッセイやコラムでは、語尾の混合が許される。映画の解説文や紹介文なども混合されることがある。語尾が混合されると、話し言葉を文字化した文に見える。

映画ライターの目的は、読み手を誘うこと。そういった文章は、読者に合わせて、言葉と語り口を使い分け、話しかけるようなつもりで書くとよい。
やさしい口調で、正直に真剣に話せば、大抵の場合、好感を持たれるだろう。

語尾を混同する場合でも、どちらかに比重を置く。
そして、リズムやテンポのよい文章にすることを意識するのがポイント。

それから、メディアの基準なども、考慮する必要があるだろう。

文章ジャンルが何であるかを考えて書く

映画をネタにする場合でも、エッセイ、コラム、評論などの違いを把握しなければならない。文章のジャンルによって、書くときのスタンスや、内容の詰め方が変わる。

エッセイなら、自分の身近なこと、あるいは身辺雑記として、主観的に語ることになる。
この場合、自分の生活や人生などに引き付け、個人的な思いや経験を絡めて語ることになるだろう。そのためエッセイでは、感覚・感情・感性により評価をすることになる。

コラムには社会時評の一面がある。
そのためコラムを書くときは、社会的な出来事を引き合いに出して語ることが多い。ただしコラムは、社会的なことを扱うが個人的・主観的な見方によるものだ。あくまで個人的な意見として社会について述べる。

記事は、情報を正確に伝えることがひとつの目的。
客観性をもち、必要な情報を盛り込み、自分の見方をそっと織り込む。ライターが求められるのは、ほとんどがこの「記事」というジャンル。記事では、読み手の期待する情報が含まれており、不満を与えないことが重要。
まつかわゆま氏は、情報の正確さと、早さや多さが評価されるなかで、いかに個性的であるかが面白いところ、と述べている。

評論や批評は、客観的・一般的・学術的な見方。
読み手を説得するためには、起承転結や5W1Hなどが必要になる。
なによりも大切なのがオリジナリティ。
評論や批評には、さまざまな知識や情報を読みこなした独自の考察が必要。
考察が中心となる評論や批評は、大変な作業になる。

ライターに望まれる文章

分かりやすさが重要になるのは、読む人に知識があまりないとき。映画記事を読む人は、どのように面白いのか、料金と時間に見合う娯楽なのかを知りたがっている。そのため、紹介と解説が必要になる。
ただし、プレスリリースを読めば分かるような内容では、ライターに依頼する必要はない。

ライターが記事を書くときは、読者が喜びそうな情報を入れながら、独自の視点や感想、考察などを加える。この際、押し付けがましくならないようにまとめる。
短い文章になることが多いので、テーマや言いたいことを絞って、ストーリーやエピソードとしてまとめるとよい。

プレス記事はあくまで資料として読み込み、自分の感じたことと、その理由を書くのがライターの仕事。

映画や小説をブログネタにするときはどこまで書いていいの?

まつかわゆま氏は、ネタばらしはケース・バイ・ケースだとしながら、論を立てるためにどうしても必要でない限りは、ネタばらしをしないようにしている、と述べている。
ドキドキ感が映画を見る楽しみのひとつなので、予備知識の与え過ぎに注意しているとのこと。

それから、辛口と悪口は違うということも書かれている。
辛口とは、自分が面白くない理由と論拠を明らかにした批評であり、反論には受けて立つという態度がある。
対して悪口は、理由や論拠のない感情的・主観的な好き嫌いであり、一方的な発言。

まつかわゆま氏は、ライターは表現者の一人なのだから言葉を選ぶことも重要、とも述べている。

文章上達のために好きな作家の文体を真似る

まつかわゆま氏は、文章が上手くなりたい人や、自分のスタイルを作りたい人に、好きな作家の文体を真似ることを勧めている。
好きな作家の文章を音読し、その口調のまま自分の考えていることを声に出して話してみる。その際は、小説よりエッセイなどのほうが、文体をつかみやすく、真似しやすい。繰り返していると、その作家や文章のどこに惹かれているのかが分かってくる。
次は、自分の意見を書いてみる。書く文の種類によって、何人かのお手本を用意してみるとよいとのこと。

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