小説

『流浪の月』凪良ゆう 世間からは理解してもらえない二人の関係性【書評】

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凪良ゆうさんの『流浪の月』は、東京創元社より2019年8月に刊行された。2020年本屋大賞受賞作。主人公は更紗と文のふたり。ふたりの関係性が、本作のテーマになっている。世間からは理解されないふたりの出会いと15年後の再会。だがふたりは絆を確かめ合う。

凪良ゆうさんのデビュー作は、2006年に白泉社の『小説花丸』に掲載された、BL作品『恋するエゴイスト』。翌年の2007年には、『花嫁はマリッジブルー』が白泉社花丸文庫より刊行され、本格デビューを果たした。以降、各社でBL作品を精力的に刊行されてきた。

10周年を迎えた17年に、講談社タイガより非BL作品の『神さまのビオトープ』を発表。
一般文芸を執筆されるようになり、2019年8月に東京創元社より刊行されたのが『流浪の月』。本作は2020年本屋大賞受賞作。第41回吉川英治文学新人賞候補作、キノベス!2020 第7位となった。

出版社から「好きに書いていいよ」と言われたからこそ、多くの人の心を動かす作品が生まれたようだ。

凪良ゆうさんは、コメディーからシリアスまで作風を広げてきた。『流浪の月』はシリアスな作品である。また、もともと漫画家志望であったとのこと。

冒頭から引き込まれていく小説であった。先が気になり、一気に読了した。
主人公は更紗と文のふたり。ふたりの関係性が、本作のテーマになっている。ふたりが出会い、離れ離れになりそして再会し、その後の人生がある。

実はふたりは、誘拐された少女と誘拐犯にされてしまった。社会の常識ではその通り。なにせ9歳の少女なのだから。だがふたりにとっては違う。更紗が説明しようとしても、ストックホルム症候群として片付けられてしまう。ちなみにこの精神医学用語は、1973年にスウェーデンの首都で起きた銀行強盗事件が由来。

文は、当時、19歳の男子学生だった。彼は身体的に深刻な悩みを抱えていた。第2次性徴がこない。この事が、文の行動やふたりの関係性に影響している。

文が警察官に取り押さえられ、更紗が泣き叫ぶ様子が居合わせた人々の携帯で撮影され、インターネットで拡散された。小学生4年生の時の更紗の顔写真と氏名は、行方不明であった期間に報道されていた。

文はロリコン男というレッテルを貼られ、医療少年院を出た後も身を潜める生活を余儀なくされた。更紗もまた、傷物にされたかわいそうな女の子という目で見られ、その状況は成人してからも続く。

世間の客観と本人たちの主観には、大きな食い違いがある。
それはいつになっても変わらない。ごく一部の理解者を除いては。

被害者と加害者でも、女と男でもなく、ふたりには切実な絆があった。

事件、あるいは犯罪と見做されることにも、裏にはドラマが潜んでいた。
本当に糾弾すべきはDV男や、父親が亡くなり母親が失踪したあとに預けられた伯母宅の従兄。
だが世間や警察は、そのように考えることも想像することもしない。
既に彼らは、少女が保護された時点で、出来事を単純化し、真実とはほど遠いストーリーを頭の中に描いていた。9歳の更紗に修正させようとはしない。

読了後、しばらく経っても頭から離れない物語であった。久々の感覚。
リアリティがあり、人物造形に優れていると、このような感覚になる。
架空の話だと分かっていても、これ以上の不運に遭わないことを願いながらページを繰った。

この物語にはどんでん返しはない。というよりも不要。
作中の世間一般からすれば驚きの連続なのだろうが、真実を知る読者はふたりの幸せを願う。
クライマックスがあり、結末があれば、充分に読み応えを感じる作品。
意外性が無くても飽きさせない。
逆に、自然と物語の中に入り込める。

何度も取り上げられてきた題材であっても、新鮮に感じるのは、物語の展開や作者の感性が優れているからであろう。
場面を描写するときの匙加減や筆致も優れていると感じた。

これからも過酷で困難な人生が待ち受けているのかもしれない。
それでもふたりは前向きに生きていくようだ。

流浪の月(創元文芸文庫)/凪良ゆう
出典:Amazon
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