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『小説読解入門:「ミドルマーチ」教養講義』廣野由美子 小説技法と教養【書評】

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この記事では、廣野由美子氏の著書『小説読解入門:「ミドルマーチ」教養講義』を紹介します。

小説読解入門:「ミドルマーチ」教養講義 廣野由美子・著

小説読解入門/廣野由美子
出典:Amazon

書誌情報

書名:小説読解入門:「ミドルマーチ」教養講義
著者:廣野由美子
出版社:中央公論新社(中公新書)
発売年月:新書 2021年4月/電子書籍 2021年4月
ページ数:新書 296ページ
Cコード:C1290(文学総記)

19世紀英国の小説を実例にした技法解説と教養を深める文学関連の11分野

廣野由美子氏の『小説読解入門:「ミドルマーチ」教養講義』は、2021年4月に中公新書より刊行された。本書では、物語作品について、作家の用いる小説技法と、教養を深めるトピックから解説している。

姉妹篇である前著『批評理論入門:「フランケンシュタイン」解剖講義』(中公新書, 2005年3月)では、廣野氏は対象として小説『フランケンシュタイン』を選ばれた。その時は、批評理論の説明であったので、わかりやすく比較的シンプルなストーリーが題材として適していると考えたそうだ。『批評理論入門』は、教科書としても使用されている。ちなみに、副題の「解剖講義」は、題材が『フランケンシュタイン』であることが関係しているそうだ。

『小説読解入門』においては、「イギリス的特性を豊かに備えた作品で、かつイギリス小説史のなかで最高峰」とも言える小説『ミドルマーチ』を選ばれたとのこと。『ミドルマーチ』は、廣野氏が独文学から英文学へ転向するきっかけになった小説とのことで、思い入れがあるようだ。本書における「ひとつの作品を材料にして、読み方の多様性を広げ、分析を深める」というコンセプトに適っていると感じた。さらに、廣野氏は『ミドルマーチ』(光文社古典新訳文庫)の翻訳をされているので、都合がよかったようだ。

また、前著『批評理論入門』は、第1部「小説技法篇」と第2部「批評理論篇」という二部立であったが、『フランケンシュタイン』は一人称小説。よって、『批評理論入門』の第1部「小説技法篇」では、一人称小説に沿っての解説になった。対して、『ミドルマーチ』は三人称小説。『小説読解入門』は、第1部「小説技法篇」と第2部「小説読解篇」の二部立であるが、第1部「小説技法篇」で三人称小説『ミドルマーチ』を解説できるという理由もあった。

『小説読解入門』の第二部では、教養の11部門を取り上げて解説しており、副題を「教養講義」と名づけた。実は、廣野氏は小説をあまり読まないらしく、余暇では小説と無関係な領域の本を読むことが多いらしい。そんな中でも、学問・文化の諸分野が、教養の素材として文学に関わってくることを、自分自身の読書体験から実感しており、第二部がこのような流れになったようだ。

廣野氏が文学と関連する分野として取り上げたのは、「宗教」「経済」「社会」「政治」「歴史」「倫理」「教育」「心理」「科学」「犯罪」「芸術」。小説をいかに読むかを模索すると、文学とは何かという問題に突き当たる。それが「世界のさまざまな側面を、具体的な人間の在り方の実例をとおして示し、変革を促すもの」であるとしたら、文学の機能が〈教養〉と密接に関わっていることを意味するのだろう。これもまた、廣野氏が『ミドルマーチ』を題材に選んだ理由のひとつ。

『ミドルマーチ』の作者であるジョージ・エリオット(本名:メアリ・アン・エヴァンス)と、『フランケンシュタイン』の作者であるメアリ・シェリーは、教養人であった。二人とも19世紀に活躍したイギリス人女性作家である。

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