― 『三省堂国語辞典』『新明解国語辞典』『岩波国語辞典』、それぞれのことば観 ―
日本語を扱う社会人にとって、国語辞典は単なる“語の意味を調べる道具”ではありません。
ことばの使い方を判断し、文章表現の指針を示してくれる「相棒」です。
その中でも、社会人にとくに選ばれることが多いのが次の3冊。
- 三省堂国語辞典
- 新明解国語辞典
- 岩波国語辞典
どれも定評のある大辞典ですが、実は日本語への基本姿勢が大きく異なります。
今回は、それぞれの辞典がどのような価値観を持って編集されているのか、
「ことば観」の視点から見比べてみます。
1. 三省堂国語辞典
― 現代語を“使いながら考える”辞典
現代語の運用に重きを置いた辞典。
語釈は簡潔で、用例は生きています。
✦ 特徴
- 現代日本語の使われ方を大切にする
- 客観的で、断定しすぎない
- 調べるたびに「今の日本語」が見えてくる
✦ 社会人に向く点
- 仕事で迷った「言い回し」をすぐ判断できる
- 表記ゆれや敬語の扱いが実用的
- 文章の“地に足をつける”感覚が養われる
書き手・話し手としての感覚を磨きたい人に
まず薦めたい1冊です。
2. 新明解国語辞典
― ことばに“人生”を読み込む辞典
説明の独自性でおなじみの辞典。
ただ意味を示すだけでなく、語の背景にある感情や社会性まで踏み込みます。
✦ 特徴
- 断定を恐れない語釈
- 思想が通っている
- 例文が生々しく、時に辛辣
✦ 社会人に向く点
- 言葉のニュアンスに敏感になれる
- 文章に“息遣い”を持たせられる
- 単語の選び方が深くなる
好みが分かれますが、
「辞書で考えさせられる経験」をしたいなら、これ一択。
3. 岩波国語辞典
― 標準語のゆるぎない礎
落ち着いた文体で、語の意味を体系的に示す辞典。
規範意識が高く、学術的に信頼の置ける内容です。
✦ 特徴
- 正統的・控えめだが精確
- 定義にムダが少ない
- 標準語の原理を外さない
✦ 社会人に向く点
- ビジネス文書の言語感覚を正す
- 表現の「正しさ」を判断できる
- 知的な文章を志向するほど相性がよい
語を“社会的な約束事”として扱う姿勢があり、
書き手に背筋を伸ばさせてくれる辞典です。
それぞれが照らす日本語の「地図」
同じ日本語を扱っていながら、
ここまでアプローチが異なるのは驚きです。
| 辞典 | 日本語の見方 | 使うと身につくもの |
|---|---|---|
| 三省堂国語辞典 | 現代語の使われ方を追う | 実用的な文章感覚 |
| 新明解国語辞典 | 言葉に宿る感情・人生 | 表現の深み・独自性 |
| 岩波国語辞典 | 標準語の規範・整合性 | 正確さと論理性 |
つまり、立ち位置が違えば
見える日本語の景色も変わるのです。
結論:3冊を「併用」すると最強
場面・目的に応じて辞書を使い分けることで、
言葉に対する解像度は一気に高まります。
- 迷ったら三省堂で現在の基準を確認し、 ニュアンスで悩んだら新明解で深掘りし、 最終判断は岩波で締める。
社会人にとって「辞書選び」は、
じつは仕事の質を左右する投資。
手を伸ばした辞書が、
あなたの文章とコミュニケーションを変えていきます。
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