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『首里の馬』高山羽根子 ‐ 孤独なようで大胆にもなれる主人公【書評】

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この記事では、高山羽根子さんの小説『首里の馬』について、そのテーマや登場人物、物語の魅力をさまざまな角度から掘り下げていきます。

首里の馬 高山羽根子・著

首里の馬(新潮社/高山羽根子)
出典:Amazon

書誌情報

書名:首里の馬
著者:高山羽根子
出版社:新潮社
発売年月:単行本 2020年7月/文庫本 2022年12月/電子書籍 2022年12月
ページ数:単行本 160ページ/文庫本 208ページ
初出:『新潮』2020年3月号

孤独なようで大胆にもなれる主人公

高山羽根子さんの小説『首里の馬』は、第163回芥川賞受賞作。
本作は、孤独なようで大胆にもなれる主人公の、心温まる物語であった。

主人公の未名子は、近所にある私設資料館で、資料整理などの手伝いをしている。
職場ではなく、中学生のときから続けている手伝いを、社会人になってからも、仕事が休みの時に行っていた。
手伝うようになったきっかけは、資料館の所有者である順が、学校にも行かない中学生の未名子を招き入れたこと。
未名子は、子どもの頃から人づきあいがあまり得意ではない。
中学生のときも学校を休みがちだった。

未名子は、亡くなった父親が残した家で一人暮らしをしている。
社会人になってからも孤独感を抱いているようだ。
そんな未名子ではあるが、時々、大胆な行動をすることがある。
ただし幸いにも、悪い状況には至らない。

資料館を所有しているのは、順という年老いた女性。
順は娘の途と近くのマンションで暮らしている。
順は民俗学者として日本各地を渡り歩いていたが、沖縄を人生の最終地と決めた。
途は小さな歯科を開業している。
途は、年老いた母親を心配して沖縄に移り住んできたようだ。

未名子が順と途に出会ったことは、この物語の大きな出来事のひとつ。

未名子は、コールセンターのテレフォンオペレーターとして働いていたが、業務縮小のため職を失う。
未名子は、同年代の多くの女性と同じように、求人情報サイトや派遣会社のデータベースに登録した。
事務職の求人に応募したところ、仕事内容はチャットでクイズを出すというもの。
面接担当者は、この仕事を交流と説明する。
断ったほうがいいのではと悩んだが、面接担当者の態度を誠実に感じ信用することにした。
クイズを出す相手は、日本語を話せる外国人。
この奇妙な仕事に就いたことが2つ目の大きな出来事。
通信相手の居場所は、宇宙、深海、シェルター。
未名子は、孤独感や閉塞感を抱いていたが、彼らに比べれば孤独ではない。

そして3つ目の大きな出来事は、台風のさなか、自宅の庭に茶色い馬が突然現れたこと。
最初は正体が分からなかった茶色い大きな生き物は、沖縄の在来種である宮古馬だった。
宮古馬が人間と関わってきた歴史や文化についても書かれている。
そして沖縄や本土、北海道に住む人類にも、石器時代からの歴史がある。

この小説の中で、役に立つのか、役に立たないのかということについて、未名子が思い巡らす場面がある。
私設資料館もクイズを出す仕事も役に立っている。
やっていることがどれくらい役に立つのかという疑問は、誰でもある程度は同じことが言えるのではないだろうか。

未名子は、資料館の資料をマイクロSDカードに保管する作業をしていた。
恐らく自発的に行っていた作業であろう。
順が亡くなり資料館が取り壊されることになるが、未名子は途の許可も得て一部の資料を持ち出した。
こうして順が収集した沖縄の郷土資料は、完全とまではいかないが残された。
未名子は、さらに現時点での情報も、知識として後世に残そうとする。
世界が変わるのなら、そういった資料が必要になるかもしれない。
資料が誰かの困難を救うかもしれないし、そうならない方がすばらしいと締め括っている。

読み始めたらすぐに、物語の展開に引き込まれ、一気に読み進めることができた。

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