歴史に興味はあるけれど、専門書は難しそう――そんな方にこそ手に取ってほしいのが、百田尚樹さんの『日本国紀』です。
日本の歴史を“物語”として語る本書は、古代から現代までを通して俯瞰できる、日本通史の入門書として読みやすい一冊です。
『日本国紀』の概要 ― 百田尚樹による“語りかける”通史
どんな本か?ジャンルと特徴
『日本国紀』(幻冬舎、2018年)は、作家・百田尚樹氏が執筆した日本通史です。書誌情報では歴史書というより「文学、評論、随筆など」に分類されており、図書コードはC0095。あくまで一般向けに書かれた通史であり、学術的な教科書や参考書とは一線を画しています。
一冊を通して、古代から現代までの日本の歩みをたどれる構成になっており、まるで“語り”を聴くようなリズムで歴史が展開されていきます。
著者と協力者による信頼性の確保
百田氏は作家としての語り口に加えて、久野潤氏、江崎道朗氏、上島嘉郎氏、谷田川惣氏といった歴史学者や評論家らの監修・協力を受けています。単なる私見にとどまらず、一定の裏付けと検証を経て執筆されていることがわかります。
通史としての魅力 ― 一貫した語り口と読みやすさ
ひとりの著者によるストーリーテリング
歴史通史というと、時代ごとに専門家が分担して執筆するのが通例ですが、本書はひとりの著者が全体を構成しています。そのため、文体や視点にブレがなく、全体が一本の線でつながっている感覚があります。読んでいて流れがつかみやすく、読後感も良好です。
「文学」として読む日本史の面白さ
帯には「当代一のストーリーテラー」「壮大なる叙事詩」といった言葉が躍りますが、実際に読んでみると歴史書というよりも“読み物”としての魅力が光ります。教科書的な羅列ではなく、著者の目線で語られる日本史には、文学的な没入感がありました。
内容への評価 ― 批判と肯定のはざまで
著者の視点と思想の反映
明治以降の記述には、百田氏自身の政治的・歴史的立場が明確に現れています。歴史上の人物に対する評価も、従来の教科書とは異なる面があり、「これは著者の自説だろう」と思える箇所も見られました。しかし、そうした記述にも言葉の力がこもっており、読み応えがあります。
「右翼的」とされる論点と読者の受け止め方
一部では「右翼的だ」といった批判もありますが、実際の記述は説得力を伴っており、極端に偏った印象はありませんでした。朝日新聞の報道と3つの国際問題との関係などについての考察も、イデオロギーというより、報道と外交の関係を問う視点として読むことができました。
初心者にもおすすめできる理由
歴史の全体像を俯瞰できる構成
本書は、年号や人物の暗記ではなく、歴史の「流れ」を重視しており、初学者でも通読しやすい内容です。日本史を一度俯瞰してみたい方、教科書の知識を補いたい方には最適な入門書といえるでしょう。
「読む教養」としての意義
学術的な裏付けの有無を問う以前に、「なぜ日本はこうなったのか」「歴史をどうとらえるか」という視座を与えてくれる一冊です。社会人としての教養や視野を広げるという点でも、意義深い読書体験となりました。
まとめ ― 読後に広がる視野と考える力
歴史を語られる体験の価値
本書は、「学ぶ」ための歴史書ではなく、「語られる」歴史を体験するための一冊です。史実の正確さばかりを求めるのではなく、日本という国を多面的にとらえるための“語り”として向き合うことで、多くの気づきを得られました。
考える入口としての『日本国紀』
すべてを鵜呑みにする必要はありませんが、自分の頭で歴史を考える入口として、本書は優れた導線となるでしょう。政治的な立場にとらわれず、まずは一読してみることをおすすめします。
書誌情報|『日本国紀』

書誌事項
書名:日本国紀
著者:百田尚樹
出版社:幻冬舎
発売年月:単行本 2018年11月/文庫本 2021年11月/電子書籍 2022年6月
ページ数:単行本 509ページ/文庫本新版上巻 402ページ/文庫本新版下巻 336ページ
Cコード:C0095(日本文学・評論・随筆・その他)