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日本語の手ざわり

「~したり」「~たりする」の正しい使い方とは?間違えやすい表現を解説

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私たちが日々使っている言葉の中には、あまりに身近すぎて、ふと立ち止まって考えることのないものが少なくありません。

たとえば「〜したり」。
友人と話すとき、日記を書くとき、SNSに短い感想をつぶやくとき……さまざまな場面で登場する表現です。

映画を観たり、美味しいものを食べたりした。
雨が降ったりやんだりしている。

この「〜たり〜たりする」は、複数の出来事をふんわりと並べてくれる、便利で親しみやすい表現です。ところが、よくよく見てみると、「なんだか変?」と感じる使い方を目にすることもあります。

週末は友人とランチをしたりしました。
朝はコーヒーを飲んだり。

一見すると自然に思えるこの言い回し、実は細やかなルールと意味の含みを持っています。なぜ違和感が生まれるのか。どんなときに「〜たり」を使うのがふさわしいのか。

この記事では、「〜したり」「〜たりする」の正しい使い方を、言葉の感触に耳をすませながら丁寧に見ていきたいと思います。

1. はじめに ―「〜したり」の違和感、感じたことはありませんか?

ある日ふと目にした一文に、言葉の引っかかりを覚えることがあります。

週末は映画を観たりしました。

それは文法的に致命的な間違いではありません。けれど、何かが足りない。言いかけて止まったような印象。読み手としては、続きを探してしまうのです。

「〜したり」という表現は、日常の会話や文章でよく使われます。その親しみやすさゆえに、ついなんとなく使ってしまうこともあるかもしれません。しかし、実はこの「〜したり」には、意外と繊細なルールと余韻が潜んでいるのです。

この小さな助詞と補助動詞の組み合わせが持つ働きについて、改めて見つめてみましょう。

2. 「〜たりする」の基本的な使い方とは?

並列する動作をリズムよく並べるとき

「〜たり〜たりする」は、複数の動作をリズムよく並列させるときに用いられます。たとえば、ある穏やかな休日の一幕を描写するなら、こんなふうに。

公園を散歩したり、ベンチで本を読んだりするのが好きです。

あるいは、雨の日の静かな午後には、

音楽を聴いたり、コーヒーを淹れたりして過ごした。

このように、「〜たり」は基本的に“複数のことを並べて述べる”ことが前提になります。それが、この表現の律動と奥行きを生む要素でもあるのです。

一例として挙げるときにも

一方、「〜たりする」は“代表的な一例”を示す用法としても機能します。

最近は急に寒くなったりしますね。
子どもが泣いたりして、大変だった。

この場合、「〜たり」の後に続く動作が省略されていても、「ほかにもいろいろあるのだろうな」という含みが残ります。少し曖昧で、余白のある言い回し。だからこそ、日記や手紙、小説のような“余韻を大切にする文体”にもよくなじむのです。

3. よくある間違いと注意点

「1つの動作だけ」に「〜たり」を使うと?

ときどき見かける表現に、こんな文があります。

週末は友人とランチをしたりしました。

この「〜たり」が指し示す動作は一つだけ。もちろん、文法的に完全な誤りとは言えませんが、どこか中途半端な印象が否めません。並べるべきものが一つしかないのなら、「〜たり」はむしろ使わない方がすっきりと伝わります。

週末は友人とランチをしました。

あるいは、もしも他にもしたことがあるなら、それを付け加えてしまいましょう。

週末は友人とランチをしたり、ショッピングをしたりしました。

言葉は、足りないと違和感を生み、過剰だと重たくなるもの。ちょうどよいバランスが大切です。

「〜たり」+「〜た」で終える場合のもやもや

たとえば、

外に出たりした。

という一文。何をしていたのか、なぜ出たのか、読者としては想像の余地が大きすぎる場合もあります。文脈によっては曖昧さが詩的に響くこともありますが、明確に描写したい場合には注意が必要です。

4. 「〜したり」ではなく、他の表現がふさわしいとき

「〜したり」は便利な表現です。しかし、「便利」であるがゆえに、つい多用してしまう危険もあります。

たとえば、ひとつの動作をすっきり伝えたいときには、こうした簡潔な表現が適しているでしょう。

誤:朝はパンを焼いたりしました。
正:朝はパンを焼きました。

また、文章全体の印象を引き締めたいときにも、「〜たり」を省いた方が効果的です。

×:夜はテレビを観たりして過ごしました。
○:夜はテレビを観て過ごしました。

特に書き言葉においては、曖昧さよりも明快さを求められる場面が少なくありません。

5. 書き手・話し手として気をつけたいこと

言葉を使う私たちは、その都度、「伝えたいことの輪郭」を明確に描く必要があります。「〜たり」という表現は、やわらかく曖昧な分だけ、意図がぼやけやすいのです。

だからこそ、自分の書いた文を見直すとき、こんなふうに問いかけてみてください。

「この“〜たり”は、何かをぼかしていないか?」
「“〜たり”を使うことで、何を伝えようとしているのか?」

この小さな自問が、言葉を一段階洗練させてくれることでしょう。

6. まとめ ―「〜したり」の正しい使い方を身につけよう

「〜したり」「〜たりする」は、やさしく柔らかな響きを持つ表現です。複数の動作を並べるとき、一例を挙げるとき、あるいは感情や出来事をやわらかく伝えたいときに、適切に使うことで文章に彩りを加えることができます。

けれど同時に、それがもたらす曖昧さや中途半端な印象には、書き手として敏感でいたいものです。

「たり」という言葉に頼るとき、私たちはその余白の中に、何を込めようとしているのか。

その問いを忘れずに、言葉と向き合っていけたら。そんな願いをこめて、この記事を結びとしたいと思います。

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