この記事では、村上春樹さんの小説『海辺のカフカ』について、そのテーマや登場人物、物語の魅力をさまざまな角度から掘り下げていきます。
海辺のカフカ 村上春樹・著
書誌情報
著者:村上春樹
発行:新潮社
発売年月:単行本 2002年9月/文庫本 2005年3月/電子書籍 2005年3月
ページ数:単行本(上巻)400ページ/単行本(下巻)432ページ/文庫本(上巻)496ページ/文庫本(下巻)544ページ
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15歳の少年が主人公の幻想的な物語
村上春樹さんの著書『海辺のカフカ』は、2002年9月に新潮社から刊行された、書き下ろしの長編小説。村上春樹さんの長編小説としては、10作目となる。上下巻二分冊で刊行され、上巻が397ページ、下巻が429ページの分量。
『海辺のカフカ』は、15歳の少年が家出を決意するところから始まる。少年は、行く先々で出会った人々に、田村カフカと名乗る。田村は本名だが、カフカはそうではない。
田村カフカの家は、東京都中野区野方にある。父親は、著名な彫刻家の田村浩一。家政婦がいる裕福な家庭だが、田村カフカが4歳のときに、母親は養女の姉を連れて家を出た。姉は6歳年上。田村カフカは、本人の知る限りでは両親の実子。
カフカというのはチェコ語でカラスのこと。少年は、自らをはぐれたカラスのようだという。また、チェコ出身のドイツ語作家、フランツ・カフカが影響しているのであろう。
物語には、カラスと呼ばれる少年が登場する。突然現れるカラスと呼ばれる少年は、田村カフカの内面から生じ幻影のようだ。
そして、海辺のカフカとは、30年ほど前にヒットしたレコードのタイトルであり、油絵の中に描かれている少年のことでもある。
家出した田村カフカは、四国の香川県高松市に向かう。夜行バスでは、さくらという名前の若い女性と親しくなる。そして、高松市の郊外にある私立図書館、甲村記念図書館では、大島さんと佐伯さんに出会う。
大島さんは21歳。トランスジェンダーである。そのことを田村カフカが知ったのは、大島さんが来館者の対応中のことである。佐伯さんは、甲村記念図書館の管理責任者で、50歳を過ぎた女性。
本作では、昭和19年の秋に山梨県の山中で起こったとされる、小学生集団昏睡事件のエピソードが、序盤で語られている。この事件は、田村カフカ少年とは別に、東京都中野区から四国に向かう、ナカタさんと繋がるようだ。ナカタさんは、年齢が60代半ばの男性。知的障害者のための補助金を受け取っている。そして猫探しの名人でもあるが、その際、猫殺しのジョニー・ウォーカーと遭遇する。そして、ナカタさんは、東京を去り、トラックドライバーの星野青年らの助けを借りながら、四国へ辿り着く。