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『カンガルー日和』村上春樹 ‐ リリカルな作風の掌編集【書評】

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この記事では、村上春樹さんの短編小説集『カンガルー日和』について、そのテーマや登場人物、物語の魅力をさまざまな角度から掘り下げていきます。

カンガルー日和 村上春樹・著

カンガルー日和(村上春樹, 講談社文庫)の表紙
出典:Amazon

書誌情報

書名:カンガルー日和
著者:村上春樹
出版社:平凡社/講談社
発売年月:単行本(平凡社) 1983年9月/講談社文庫 1986年10月
ページ数:252ページ(文庫判)

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リリカルな作風の掌編集

村上春樹さんの短編集『カンガルー日和』は、1983年9月に平凡社より刊行されました。村上春樹さんが上梓した短編集の中では2作品目にあたります。掌編小説集としては、初の作品集です。18編を所収しています。

平凡社刊行の書籍は判型が約15㎝×17㎝のA5変形サイズ

平凡社刊行の書籍は、判型が約15㎝×17㎝のA5変形サイズで、ページ数が236ページの単行本です。1986年10月には講談社より文庫本が刊行され、現在はKindle版も購入できます。すべての作品の初出は、一般書店の店頭には出ない『トレフル』という、伊勢丹主催のサークルが会員に配っていた雑誌です。

初出は伊勢丹主催のサークルが会員に配っていた雑誌『トレフル』

すべての作品の初出は、一般書店の店頭には出ない『トレフル』という雑誌です。1981年4月から83年3月にわたって連載されました。『トレフル』は伊勢丹主催のサークルが会員に配っていたものです。
毎号、400字詰めにして8枚から14枚くらいの長さで連載されました。「図書館奇譚」という作品だけ6回連続でしたが、他の17作品は1話完結です。

1983年7月のあとがきにおいて、村上春樹さんは次のようなことを述べています。

この雑誌は一般書店の店頭には出ない種類のものなので、僕としては他人の目をあまり気にせずに、のんびりとした気持で楽しんで連載をつづけることができた。

次のようなことも書かれています。

中には現在の僕の意に沿わないものもあるし、長編のためのスケッチ風に書いて実際に組み込んだものもある。しかし結局、取捨選択は一切せずにそのまま本に入れることにした。

短編集『カンガルー日和』に収録されている18編

収録作品は次の18編です。

「カンガルー日和」「4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」「眠い」「タクシーに乗った吸血鬼」「彼女の町と、彼女の緬羊」「あしか祭り」「鏡」「1963/1982年のイパネマ娘」「バート・バカラックはお好き?」「5月の海岸線」「駄目になった王国」「32歳のデイトリッパー」「とんがり焼の盛衰」「チーズ・ケーキのような形をした僕の貧乏」「スパゲティーの年に」「かいつぶり」「サウスベイ・ストラット」「図書館奇譚 1 ~ 6 」

「4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」は、男の子と女の子が出会い離れ離れになり、大人になってからお互いを探し始めるという物語ですが、これを派生させたのが2009年5月から2010年4月にかけて上梓された長編小説『1Q84』です。

「図書館奇譚」には、村上作品で何度か登場するキャラクター「羊男」が登場します。「羊男」は、1982年10月刊行の長編小説『羊をめぐる冒険』、1983年5月刊行の短編集『中国行きのスロウ・ボート』の「シドニーのグリーン・ストリート」、1988年10月刊行の長編小説『ダンス・ダンス・ダンス』などに登場するキャラクターです。
「羊男」は本物の羊の皮をすっぽりとかぶり、手には黒い手袋、足には黒い作業靴、顔には黒いフェース・マスクといった格好。

都会のメルヘンであったり、奇妙な話であったり、読者をやさしく包み込んだりと、作品ごとに変化があります。全体的にはセンチメンタルな作品が多く、リリカルな作風の掌編集という印象を受けました。本文にはイラストが描かれています。これらは佐々木マキさんのイラストです。

4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて

この長いタイトルの小説は、6ページで完結する、4、5千字程度のとても短い小説です。

初出は『トレフル』1981年7月号。

長いタイトルには、女の子という単語があります。
女の子といっても、彼女の年齢は主人公の「僕」の推測では30歳近く。そして「僕」は32歳です。

この短篇小説には、僕と見知らぬ彼女が、原宿の裏通りですれ違ったときの話が書かれています。
主人公の「僕」は、その時のことを振り返り、どのように話しかけるべきだったかを、台詞として考えました。その台詞は2ページ程度の分量であり、台詞というよりは一つの物語のようです。

そして台詞として考えた話は、「昔々」という言葉で始まります。
その話の中で、18歳の少年は、16歳の少女に次のように言います。

もし僕たち二人が本当に100パーセントの恋人同士だったとしたら、いつか必ずどこかでまためぐり会えるに違いない。(台詞の一部を抜粋)

少年と少女は、つぎにめぐり会った時に結婚することを誓い合って別れました。そして少年が32歳になり、少女が30歳になった時にすれ違うのです。

村上春樹さんは、この短篇小説を派生させて、『1Q84』を書いたと述べています。これは、話の骨格として取り入れたということでしょう。
『1Q84』は、BOOK1、2、3からなる長篇小説であり、ページ数の合計は1,664ページです。

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