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『コンジュジ』木崎みつ子 ‐ 現実と妄想と伝記の三つが絡み合う【書評】

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この記事では、木崎みつ子さんの小説『コンジュジ』について、そのテーマや登場人物、物語の魅力をさまざまな角度から掘り下げていきます。

コンジュジ 木崎みつ子・著

コンジュジ(木崎みつ子, 集英社)の表紙
出典:Amazon

書誌情報

書名:コンジュジ
著者:木崎みつ子
出版社:集英社
発売年月:単行本 2021年1月/文庫本 2023年2月/電子書籍 2023年2月
ページ数:単行本 168ページ/文庫本 208ページ

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現実と妄想と伝記の三つが絡み合う

木崎みつ子さんの小説『コンジュジ』は、第44回すばる文学賞受賞作。木崎みつ子さんは1990年大阪生まれ。
『コンジュジ』は、現実と妄想と伝記の三つが絡み合う、重層的な構造の小説。

この小説の主人公の名前は「せれな」。三人称で描かれている。冒頭には、11歳の少女がイギリス人のロックスター・リアンに恋をしたことが、書かれている。その少女がせれな。現在31歳となっている。

せれなが恋をしたのは、ロックバンドのボーカルで、生きていれば62歳。そして、「せれな」が17歳のときに、父親が死んだことにも、冒頭で触れている。忌まわしい記憶とあるので、何かを予感させる。物語の書き出しは穏やかだが、中盤に差し掛かるあたりからは状況が一変。嫌悪感が胸を締めつける難しいテーマを、安定した筆致で描いた作品と言えるだろう。

木崎みつ子さんは、受賞のことばと受賞者インタビューで、アイデアが浮かんでから、書き上げるまでに、五年を費やしたことを明かしている。最初にタイトルと冒頭の一文を書いてから、再び書き始めるまでに四年が経ち、その後、一年間で書き上げたそうだ。
タイトルの「コンジュジ(cônjuge)」は、ポルトガル語で配偶者の意味。主人公が最後に結婚する話にするつもりでタイトルを付けたとのこと。しかし、主人公の妄想の世界を書いているうちに、結末が頓挫したらしい。それでも、ラストシーンでは「コンジュジ」という言葉につながる。

この作品の選評では、構成や技術面、ユーモアのセンスなどの評価が高い。この小説では、悲惨な現実、リアンとの妄想、リアンの伝記本という、三つの世界が交差する。この重層的な構造や表現力も、選考委員の方々から高く評価されたようだ。現実世界が生々しく、過酷なだけに、妄想や伝記本の箇所は気が落ち着く。

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