この記事では、村上春樹さんの小説『1973年のピンボール』について、そのテーマや登場人物、物語の魅力をさまざまな角度から掘り下げていきます。
1973年のピンボール 村上春樹・著
書誌情報
書名:1973年のピンボール
著者:村上春樹
出版社:講談社
発売年月:単行本 1980年6月/文庫本 1983年9月, 文庫本新デザイン 2004年11月/電子書籍 2004年11月
ページ数:単行本 207ページ/文庫本新デザイン 192ページ
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僕と鼠のその後
『1973年のピンボール』(講談社)は、1980年に発表された村上春樹さんの2作目の長編小説です。単行本のページ数が207ページであり、中編の分量かもしれませんが、長編小説として数えられることが多い作品です。
実際に、雑誌に発表された新進作家による純文学の中・短編作品が対象の芥川龍之介賞の候補になりました。本作は、1980年の『群像』3月号に掲載され、同年6月に講談社から単行本化されました。第83回芥川龍之介賞候補および第2回野間文芸新人賞候補となりましたが、受賞はしていません。
1979年発表のデビュー作『風の歌を聴け』(講談社)、1980年発表の『1973年のピンボール』、1982年発表の『羊をめぐる冒険』(講談社)は、三部作です。
村上春樹さんの初期三部作と呼ばれるこの三作には、主人公の「僕」が語り手として登場します。
主人公の友人である鼠という人物が、3作品に登場するので、鼠三部作とも。
また、主人公が20代のときの物語であり、友人やガール・フレンドとのことが書かれているので、青春三部作とも呼ばれています。
それから1988年発表の『ダンス・ダンス・ダンス』(講談社)は、主人公の「僕」が、三部作と同一人物です。
『ダンス・ダンス・ダンス』は、三部作の続編であり、四部作の一作としても扱われます。
ただし鼠は登場しません。
「僕」と「鼠」は、地元が同じで『風の歌を聴け』の段階では地元のバーで一緒に飲み明かすような仲でした。
『1973年のピンボール』では、その後の二人の、それぞれの人生が描かれています。
本作品は、「1969-1973」というプロローグに続き、「ピンボールの誕生について」という章があり、本編は1から25までナンバリングされ、25はエピローグです。
「僕」の章が連続することもありますが、僕の物語と鼠の物語が交互に語られる構成です。
『1973年のピンボール』には、一卵性の双子の姉妹が登場し、プロローグからすでに主人公の「僕」のアパートに居候しています。
双子の姉妹は個性的で、主人公の「僕」との会話が面白く、この小説の読みどころのひとつといえるでしょう。
鼠もまた、設計事務所で働いている27歳の女性と出会い、付き合い始めました。
彼女はしっかりしていて、大人の女性という雰囲気です。
対して「僕」がつき合いだした双子の姉妹は風変わりだが可愛らしい女の子たち。
少し変わった女の子たちですが、居候の身であることを自覚していますし、なかなかできた女の子で可愛げがあります。
もっとも双子の姉妹と同居する機会など、なかなかあり得ないことでしょう。
『1973年のピンボール』には、プロローグとエピローグがあります。
プロローグは、「1969-1973」という見出しで、分量は26ページです。
主人公の「僕」は、70年安保闘争の頃を大学生として過ごしていました。
あまり真面目な大学生ではありませんが、時代背景を理解しておく必要はあるでしょう。
プロローグには、死んでしまった直子という女性のことも書かれていますが、本編には登場しません。
1969年は、主人公の「僕」とガール・フレンドの直子が20歳の年。
1973年に、主人公は直子が子どものころ暮らしていた街を一人で訪れます。
主人公は、直子から聞いていた街に行ってみたかったようです。
プロローグの最後には、これは僕と鼠と呼ばれる男の話とあります。
1970年の冬、主人公の「僕」は新宿のゲーム・センターで、ジェイズ・バーと全く同じピンボール台を見つけました。
ジェイズ・バーとは、主人公の地元にあるバーの名称です。
ジェイズ・バーにあったピンボール台は、ギルバート社の「スペースシップ」というモデル。
主人公の「僕」は、夏休みなどに帰省したときに、鼠と一緒にジェイズ・バーを頻繁に訪れていました。
主人公の「僕」は、ジェイズ・バーではあまりピンボールに興味を示しませんでしたが、新宿のゲーム・センターでのめり込みます。
大学には殆ど顔も出さず、アルバイトの給料の大半をピンボールに注ぎ込んだ
主人公の「僕」は、時々、まるで彼女を相手にしているように、空想の中で「スペースシップ」と対話します。
しかし、年が明けた1971年2月、ゲーム・センターは取り壊されてしまいました。
1972年の春、主人公は友人と翻訳を専門とする事務所を開きました。
翻訳の仕事を始めてからしばらくして、主人公は東京中のゲーム・センターを巡り、3フリッパーの「スペースシップ」を捜します。
そしてエピローグは、双子の姉妹とのちょっとしたアクシデントと、あっけない別れで締め括られます。