この記事では、東野圭吾さんの小説『夢幻花』について、そのテーマや登場人物、物語の魅力をさまざまな角度から掘り下げていきます。
夢幻花 東野圭吾・著
書誌情報
書名:夢幻花
著者:東野圭吾
出版社:PHP研究所
発売年月:単行本 2013年5月/文庫本 2016年4月
ページ数:単行本 371ページ/文庫本 480ページ
紙書籍
新しい科学情報や時代背景を取り入れての刊行
東野圭吾さんの『夢幻花』は、PHP研究所から2013年に刊行された。第26回柴田錬三郎賞受賞作。
初出は、PHP研究所の月刊誌『歴史街道』。2002年7月号から2004年6月号まで連載された。
『歴史街道』への小説連載の依頼があったとき、歴史ものは無理と、一旦断ったところ、編集者から歴史ものでなくても、何かちょっとでも歴史に関係する部分があればいいといわれ依頼を受けることに。
そこで思いつかれたのが黄色いアサガオ。アサガオに黄色い花はないが、江戸時代には存在した。なぜ今は存在しないのか。人工的に蘇らせることは不可能なのか。考えていくと、徐々にミステリの香りが立ち上がり、面白い素材かもしれないと思えてきたとのこと。
東野圭吾さんは、連載を終えたあと、難点を感じ、単行本の刊行が引き延ばしになってしまったと、仰っている。科学情報が古くなり、「黄色いアサガオ」というキーワードだけを残し、全面的に書き直されたそうです。
本作は、人間ドラマが交錯するミステリ。読み始めたときは、東野圭吾さんらしい理系色の濃い推理小説という感想を抱いた。そして、この時期に多い東日本大震災に纏わるエピソードを取り込んでいるという感想。
実際は、新しい科学情報を取り入れ、時代背景を意識して、全面的に書き直されていた。小説には古典的な価値を求めることがあるが、こういったエピソードを知ると、新刊を読む意義は大きいと実感した。
東野圭吾さんは、どちらかというと多作家。その時代に出す意味も考えながら、作品を世に送り出されているようだ。
小説家は、作家としての一貫したモチーフや作風というものを確立しながらも、面白い素材を集め、新鮮さや新しい思想を追求している。小説は架空の話であるが、優れた作家はこういった労力を惜しまないことを、あらためて教えられた。