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『大人のための言い換え力』石黒圭 ‐ 文章がうまい人はTPOを考慮して書ける【書評】

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この記事では、石黒圭氏の著書『大人のための言い換え力』について、そのテーマや概要をご紹介します。

大人のための言い換え力 石黒圭・著

大人のための言い換え力(NHK出版新書/石黒圭)
出典:Amazon

書誌情報

書名:大人のための言い換え力
著者:石黒圭
出版社:NHK出版新書
発売年月:新書 2017年12月/電子書籍 2017年12月
ページ数:新書 256ページ
Cコード:C0281(日本語)

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文章がうまい人はTPOを考慮して書ける ―― 10種類の言い換え法

石黒氏の『大人のための言い換え力』は、NHK出版新書より、2017年12月に刊行された。易しい文章で書かれた日本語学的な本である。

本書のタイトルには「言い換え力」という言葉が使われている。とくに、大人向けの言い換え力。言語活動は本質的に言い換えであり、言い換え力は推敲力の基盤。そして、言葉の言い換えにおいてTPOが重要だ。本書は、TPOに合わせた推敲力を身に付けることを目指している。

石黒氏は、TPOに合わせた推敲力を読者に身に付けてもらうために、言い換え法を10種類に分けるとともに10章に章分けをされた。各章の見出しと副題からその内容や目的が推察できる。そして、ページを繰ると具体的に推敲の必要性と方法が解説されている。

第一章の見出しは「知的に言い換える」であり、副題は「話し言葉→書き言葉」であるが、10章の見出しと副題は次のとおりである。

本書の章分け(言い換えの10分類)

第一章 知的に言い換える―― 「話し言葉→書き言葉」
第二章 わかりやすく言い換える―― 「難しい言葉→易しい言葉」
第三章 正確に言い換える―― 「一般語→専門語」
第四章 やわらかく言い換える―― 「下位語→上位語」
第五章 ダイレクトに言い換える―― 「間接表現→直接表現」
第六章 イメージ豊かに言い換える―― 「直接表現→感化表現」
第七章 素直に言い換える―― 「婉曲的な表現→率直な表現」
第八章 穏やかに言い換える―― 「不快な表現→丁寧な表現」
第九章 シンプルに言い換える―― 「冗長な表現→簡潔な表現」
第十章 言葉を尽くして言い換える―― 「物足りない表現→十全な表現」

また、本書の構成にはもう一つの特徴があり、分類された10章を2章ずつセットにしている。たとえば、第1章と第2章は、言葉の難しさについての議論。第1章「知的に言い換える」と第2章「わかりやすく言い換える」はセットであるが、二つは対立する文章表現とも言えであろう。

全体として二つに分かれて対立する表現の方向性があり、石黒氏はそれぞれを「ぴったり系」と「ゆったり系」として、目指す表現の方向を整理して示された。服を考えるときと同様に、一長一短があり、TPOが重要。「はじめに」において、本書の構成が表にして示されている。

扱う内容ぴったり系ゆったり系
言葉の難しさ知的な表現(第一章)わかりやすい表現(第二章)
言葉の厳密さ正確な表現(第三章)やわらかい表現(第四章)
言葉の含みダイレクトな表現(第五章)イメージ豊かな表現(第六章)
言葉の丁寧さ素直な表現(第七章)穏やかな表現(第八章)
文章の長さシンプルな表現(第九章)詳しい表現(第十章)
『大人のための言い換え力』(石黒圭, NHK出版新書)の「はじめに」より

そして各章では、具体的に方法を示す。第1章「知的に言い換える」では、漢語・外来語・雅語・二語の組み合わせ・名詞表現・接続詞・副詞などの項目を設けて、言葉の選び方や文章力について説く。

「知的に言い換える」とは、話し言葉を書き言葉に言い換えるということ。日常的な話し言葉は、稚拙になりがちなため、そのままでは文章には使いづらい。書き言葉らしい知的な表現に言い換えなければならない。しかし、知識に差があると、いくら知性のある文章を書いても、読み手にとっては理解できない難解な文章になってしまう。そこで、書き手には、読み手に合わせてわかりやすく言い換える表現力も要供される。「わかりやすく言い換える」とは、難しい言葉を易しい言葉に言い換えるということ。片方だけを追求することなく、両方を学ばなければならない。

このようにして、第3章以降も進行する。第3章「正確に言い換える」と第4章「やわらかく言い換える」は言葉の厳密さ、第5章「ダイレクトに言い換える」と第6章「イメージ豊かに言い換える」は言葉の含み、第7章「素直に言い換える」と第8章「穏やかに言い換える」は言葉の丁寧さ、第9章「シンプルに言い換える」と第10章「言葉を尽くして言い換える」は文章の長さ。

第3章と第4章は言葉の厳密さを扱う章であるが、研究者らは表現の正確さを追求する。同じくジャーナリストやビジネスパーソンにとっても、事実を誤りなく伝える正確さが必須。ただし、いつも正確に表現すればよいというわけではない。性や死に纏わることなどは、読み手に不快な印象を与えないように、ある程度ぼかすことが必要。たとえば、小説では性や死を扱うことが多く、やわらかく言い換える表現力が必要になるであろう。

第9章と第10章は言葉の長さを扱う章。無駄のないシンプルな文章と、情報不足がない詳しい文章という対局的な二つの表現を議論する。方向が反対のようではあるが、難しく考える必要はない。重要なのはTPO。どんなジャンルのどんな内容の文章かで、言い換え方が変わるというだけ。この事は、第1章から第10章までにおいて言える。それを理解した上で、表現の引き出しを増やしていけばよい。文章がうまいと言われる人は、表現の引き出しを使い分けている書き手。本書も、この立場で書かれている。文章では、内容を変えなくても、読み手や媒体や目的などに応じて、書き方を変えればよい。

私たちは日本語で文章を書くときに、思考段階から、自分の意見として主張をまとめ、その次に読みやすい伝わる日本語に言い換える。さらに今日では、翻訳しやすい日本語という概念がある。訳せる日本語という概念については、日本語の破壊を招くという批判もあるが、国際的に開かれた日本語にしていくという観点では、必要なのかもしれない。この件については、作家や評論家の間でも議論があるようだ。特定の言語に訳しやすい日本語への加工は、実際に必要になっているのであろう。これには、Google翻訳のような機械翻訳も含む。近代の日本において、欧米諸語を翻訳する際には、母国語である日本語のほうに変化を加えた。訳せる日本語という概念が生まれたように、今日では考慮しなければならないことが多いようだ。

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