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『銀河鉄道の父』門井慶喜 父子の情、家族愛【書評】

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この記事では、門井慶喜さんの小説『銀河鉄道の父』について、そのテーマや登場人物、物語の魅力をさまざまな角度から掘り下げていきます。

銀河鉄道の父 門井慶喜・著

銀河鉄道の父/門井慶喜
出典:Amazon

銀河鉄道の父

著者:門井慶喜
出版社:講談社
発売年月:単行本 2017年9月/文庫本 2020年4月/電子書籍 2020年4月
ページ数:単行本 418ページ/文庫本 528ページ

父子の情、家族愛

門井慶喜さんの長編小説『銀河鉄道の父』は、第158回直木賞受賞作です。本書は「小説現代」2016年10月号から2017年7月号に連載されたものに、加筆、修正したうえ、2017年9月に講談社から刊行されました。単行本で418ページの分量です。

父親でもある気鋭作家が描く父子の情、家族愛。本書には、宮沢賢治の生涯や家族についての物語が、賢治の父・宮沢政次郎の視線を通して描かれています。賢治の立場で読むのか、父の政次郎の立場で読むのかで、味わいや感じ方は変わってきます。

そして賢治の母・イチや祖父・喜助、祖母・キンの存在も大きかったはずです。また賢治の妹のトシとシゲとクニ、弟の清六らにとって、長男である賢治はどのような存在であったのか。賢治の名付け親は、実は政次郎の弟・治三郎。治三郎の職業は写真家ですが、金持ちの道楽と村人から陰口をたたかれることもあります。

賢治の生家は祖父・喜助の代からの富裕な質屋です。花巻の商家としての宮沢家は、徳川時代後期、宮沢宇八という人のひらいた呉服屋「井づつや」に始まります。領内の富商でしたが、孫の喜太郎が派手好き遊び好きで、戊辰戦争の影響もあり、店はつぶれ財産は四散しました。それでも喜太郎の弟・三男の喜助が、花巻をはなれて始めた古着屋の商売で小金をため、花巻に戻り質屋をひらきました。その息子の政次郎は家業の質屋を継ぎます。本来は賢治も政次郎の後を継ぐ立場でした。政次郎は、町会議員でもある地元の名士であり、浄土真宗の熱心な信者でした。
賢治は、事あるごとに政次郎に無心し、日蓮宗系の宗教団体にも入会しました。道楽者と揶揄されることもありました。宮沢賢治は1896年に岩手県花巻市に生まれ、1933年に37歳の若さで亡くなります。教師や技師として地元に貢献し、多数の詩や童話を創作します。病気のため寝床に臥せるようになってからも、創作を続けました。

門井慶喜さんは、お子さんのために買った宮沢賢治の学習漫画がきっかけとなり、『銀河鉄道の父』を描こうと思いついたと仰っています。明治時代の家父長制全盛期にもかかわらず、過保護な父親であった政次郎と、賢治のエピソードに衝撃を受けたそうです。

銀河鉄道の父/門井慶喜
出典:Amazon
書誌情報

書名:銀河鉄道の父
著者:門井慶喜
出版社:講談社
発売年月:単行本 2017年9月/文庫本 2020年4月/電子書籍 2020年4月
ページ数:単行本 418ページ/文庫本 528ページ
初出:「小説現代」2016年10月号から2017年7月号に連載されたものに、加筆、修正

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