小説

『ホテルローヤル』桜木紫乃 ‐ 父親がかつて経営し実在した施設【書評】

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この記事では、桜木紫乃さんの小説『ホテルローヤル』について、そのテーマや登場人物、物語の魅力をさまざまな角度から掘り下げていきます。

ホテルローヤル 桜木紫乃・著

ホテルローヤル(集英社文庫/桜木紫乃)
出典:Amazon

書誌情報

書名:ホテルローヤル
著者:桜木紫乃
出版社:集英社
発売年月:単行本 2013年1月/文庫本 2015年6月/電子書籍 2015年7月
ページ数:単行本 200ページ/文庫本 224ページ

初出

初出は次のとおりですが、単行本化にあたり大幅な加筆・修正が行われています。

初出誌『小説すばる』
シャッターチャンス(「ホテルローヤル」改題) 2010年4月号
本日開店 書き下ろし
えっち屋 2010年7月号
バブルバス 2011年2月号
せんせぇ 2011年7月号
星を見ていた 2010年12月号
ギフト 2012年3月号
(巻末より引用)

父親がかつて経営し実在した施設

桜木紫乃さんの短編集『ホテルローヤル』(集英社, 2013年1月)は、第149回直木賞(2013年上半期)受賞作です。本書は連作短編 7編を収録しています。桜木紫乃さんは1965年北海道釧路市生まれ。

タイトルの「ホテルローヤル」は、作中に登場するラブホテルの名称です。実在した施設であり、しかも桜木さんのお父様がかつて経営していたラブホテルと同じ名称です。その実家のホテルは、執筆当時はまだ営業していたそうですが、単行本が出版となる直前に廃業したそうです。

ホテルローヤル開業者の娘・雅代は、作者の桜木さんと同じ境遇です。思い出を反映しているのか、という質問に対して桜木さんは、虚構を描いた物語であり経験したことをそのまま書いているわけではありませんが、経験が書かせる一行もあったのではと思っています、という趣旨の話をしています。

桜木さんが15歳のときに、お父様が莫大な借金をしてラブホテルを立ち上げたそうです。ホテルの事務所の上に住まいがあり、学校から帰ると毎日手伝いをしていたそうです。家の中をつねに他人が出入りしていたので、人間の側面を知る場所になったというようなお話もされています。

本作の主な舞台は北海道の湿原に臨むラブホテル「ホテルローヤル」です。本書は、「シャッターチャンス」「本日開店」「えっち屋」「バブルバス」「せんせぇ」「星を見ていた」「ギフト」の7編からなります。各編は、主人公や登場人物などが変わりますが裏では繋がっています。

一編目の「シャッターチャンス」の執筆は、桜木さんの担当編集者から「廃墟でヌード撮影をする話」というアイデアを提案されたことがきっかけだったそうです。

「シャッターチャンス」の主人公は美幸。短大を卒業してから13年、スーパーの事務を執っています。そのスーパーに中学時代の同級生、貴史が採用されたのが3年前。中学時代の貴史は、アイスホッケーのポジションがセンターフォワードで、クラスではまとめ役という存在でした。

高校では、チームを三年連続全国優勝に導いています。そんな有望選手でしたが、28歳のときに怪我により引退してからは、アイスホッケーを離れ、市の臨時職員を経て、スーパーの宅配運転手を選び、美幸の同僚となったのです。

冒頭では、美幸は貴史の運転する車の車内。ハンドルを握る貴史は、撮影日和という言葉を口にします。後部座席にはデジタル一眼レフカメラ一式が入ったカメラバッグがあります。向かっているのは、廃墟となったラブホテル「ホテルローヤル」。

連れて来られた部屋で、美幸は貴史から一冊の写真雑誌を見せられます。裸の投稿写真が掲載されています。美幸のイメージとはかけ離れていました。ですが貴史は「やっと見つけた目標なんだ、もう挫折したくない」などといった台詞で懇願します。

「挫折」という言葉は、美幸の弱点となり、貴史の決め台詞になっています。貴史は、美幸にとって少女の頃の憧れでありヒーローでした。男と女が求めあう官能的なストーリーです。

ここから、時間を遡る形でストーリーが展開し、最後の「ギフト」は雅代の父・田中大吉がラブホテルの経営を決意したときの話です。

第149回直木賞受賞作は官能的な作品でした。世間の常識から外れていたり、官能的だったりしますが、ほのぼのとした場面も多く、心温まる話もあります。

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