この記事では、松浦寿輝さんの小説『花腐し』について、そのテーマや登場人物、物語の魅力をさまざまな角度から掘り下げていきます。
花腐し 松浦寿輝・著
書誌情報
書名:花腐し/幽 花腐し
著者:松浦寿輝
出版社:講談社
発売年月:単行本 2000年7月/講談社文庫 2005年6月/講談社文芸文庫(幽 花腐し) 2017年1月/電子書籍(幽 花腐し) 2017年1月
ページ数:単行本 150ページ/講談社文庫 192ページ/講談社文芸文庫 352ページ
バブル崩壊から十年後の古い木造アパートの一室
松浦寿輝さんの小説『花腐し』は第123回芥川賞受賞作である。初出は講談社の月刊文芸誌『群像』の2000年5月号。小説『花腐し』は、2000年7月に講談社から単行本として刊行されている。
舞台は、バブル崩壊が始まってから、十年ほど経った東京。
そして東京の古い木造アパートの一室。
単行本『花腐し』(講談社, 2000年7月)には、書き下ろし短編小説『ひたひたと』を併録。単行本『花腐し』の分量は150ページだが、短編小説『花腐し』のみの分量は102ページである。よって、短編小説『ひたひたと』の分量は50ページほど。
なお、短編小説『花腐し』は、2017年発売の作品集にも収録されている。表題は『幽 花腐し』。全6編が収められ、文庫および電子書籍として発売されている。
『花腐し』の舞台は、バブル崩壊が始まってから、十年ほど経った東京。主人公の栩谷は四十代半ば。栩谷は不況を切り抜けてきたものの、共同経営者のずさんな経理が表に出て、借金が降りかかってきた。共同経営者とは、大学時代からの友達。その友達は、事態が明らかになる前に、逃げてしまっていた。
栩谷は、十数年前に二年間ほど祥子という女性と同棲していた。祥子は実家に帰省した際、高校時代の友達と泳ぎに行った海で亡くなっている。栩谷は、結婚も同棲もすることなく、今に至った。
物語は、栩谷が祥子の思い出を回想する場面から始まる。駐車場の軒下で雨宿りしていた栩谷は、雨の日の祥子との会話を思い出していたのだ。
栩谷は、ある理由で古いアパートへ向かっていた。実は栩谷は、このアパートの持ち主でもある、消費者金融の社長の小坂から頼まれて、ただ一人このアパートに住む伊関という男に会いに来た。
伊関は、バブル崩壊が始まった頃、多額の借金をした。伊関の部屋には若い女の子がいた。彼女は、歌舞伎町のキャバクラでアルバイトをしている、アスカという源氏名の女の子。
物語は、栩谷と伊関のやり取りを中心に、アスカも加わる。そして、栩谷の頭の中には、十年前に死んだ祥子のことが、誰かと会話しているときでさえよぎる。
取り留めもなく続く、栩谷と伊関の酒を飲みながらの会話。その中で、伊関が万葉集の一首を持ち出した。万葉集巻十春相聞に次の和歌が載っている。
春されば卯の花腐し我が越えし妹が垣間は荒れにけるかも