森村誠一氏の著書『小説の書き方:小説道場・実践編』を紹介します。
小説の書き方:小説道場・実践編 森村誠一・著

書誌情報
書名:小説の書き方 ―― 小説道場・実践編
著者:森村誠一
出版社:KADOKAWA(角川oneテーマ21)
発売年月:新書 2009年4月/電子書籍 2012年5月
ページ数:新書 256ページ
Cコード:C0295
小説の書き方の基本を一通り網羅
本書の章分けは「第1章 アイディアと構成」「第2章 書き始めと結末」「第3章 プロットの立て方」「第4章 文章論―言葉の六大機能」「第5章 文体論」「第6章 実作のサンプル」。
小説の書き方について、一通り網羅した内容になっている。要点を押さえ、基本を解説した本といえるだろう。対象作品のジャンルに関しても、時代小説、ミステリー、エッセイなどを網羅。
著者は作家の森村誠一氏。氏の実践的な小説作法に興味がある方はもちろん、基本をマスターしたい方におすすめの本である。入門書の位置づけになるが、何事も基本を軽視すべきではないと考えるなら、本書の価値は増す。
なお本書は2冊同時刊行。2009年4月に『作家とは何か ― 小説道場・総論』と共に、角川新書として刊行された。とくにプロの作家を目指すなら、作家論も大切。文壇の裏側、作家の時間管理や人間関係、原稿執筆から出版社・編集者との付き合い方などが書かれている。
「第6章 実作のサンプル」では、「性」「プラトニックラブ」「小説の雰囲気づくり」「小道具」「環境」「現場」「スリルとサスペンス」「行動」「理論構成」「叙情」「奇想天外・俳諧」「ユーモア」等々、28項目を設けている。
最初に各項目の解説をし、具体例として、引用を交えながら作品を取り上げている。やはり小説の実践的な書き方を学びたい場合、作品を引用したうえでの解説が分かりやすい。部分的であっても引用があれば、作品を読んでいないので想像しにくい、ということがないであろう。
取り上げる作品は、近現代に書かれたもの。自作も取り上げていて、作家本人による作品解説もある。「性」については、人間の性、つまり男と女のことであるが、同性を描くのか異性を描くのか、といった話から始まる。「小説の雰囲気づくり」は、事実を述べているだけでは、なんの雰囲気もなく、小説にならない、という話。
小説の本領は、文章の二大機能の一つ、情緒を伝えること。第4章は「文章論―言葉の六大機能」であるが、森村氏は、言葉の機能を六つに分けて解説している。
- 知識・情報・客観的事実の伝達
- 情緒の伝達
- 人間関係の潤滑油、挨拶、激励、弔意など
- 娯楽
- 欺罔(だまし/きもう)
- 暴力
小説は、この六つの機能を駆使して書かれる。言葉を知らなければ、小説を書けないし、読めない。小説を書いたり読んだりしなくても、大切な事である。
- 第2の機能を最大限に発揮したのが文芸。
- 第4の機能は漫才や落語。
- 第5は男と女の間や詐欺師などにおいて多用される。
- 第6は人を殺す凶器ともなる。
第5、第6は言葉の負の機能だが、ないと論戦や討議は行えない。裁判においてもこの機能が発揮される。対決のドラマでも重要。
第1と第2の機能において、混同やすれ違いがあると、誤解が生じることが多い。例えば、女性がロマンチックなムードになって情緒的なことを言ったのに、男性が客観的な事実の伝達と解釈してしまうと、すれ違いが起こる。政治家の失言も、公の場で情緒的に発言したつもりが、客観的事実として受け取られたために発生する。
森村氏は「第5章 文体論」で、文体は作家の癖、と述べられている。小説作品は、絵や音や映像やアニメ等によって表現するのと異なり、想像力の介入するスペースが広くなる。
文学を簡単に説明すると言語芸術となり、芸術を簡単に定義すると形象的表現による作品となる。小説作品は言葉を紡ぎ合わせた文章をもって表現するので、他の芸術作品とは異なる点が多い。
例えば題材を富士山にして考えると、絵による表現の場合、誰の目にも同じ形と色の富士山が見える。けれども、文字で書く場合、想像力のキャバシティは大きくなる。
文体は作家にとって重要な要素の一つ。文体は、長い間、多数の文章を書いている間におのずから形成される。そして、作品の文体は模倣から始まる。複数の作者による文章を模倣し、構成し、自分の中で消化していくうちに、自分の文体が徐々につくられてゆく。
また文体はある程度、筆者の性格を表す。明るい文章、陰翳のある文章、長文、短文と、性格が文体に現れてくる。作品のオリジナリティにも、文体は重要な要素である。
「第3章 プロットの立て方」は、「小説はプロットが生命」という項目から始まる。プロットとは話の筋立てのこと。
小説にはジャンルがあり、物語系と非物語系に大別されるが、物語系の小説ではプロットが生命。プロットの面白くない物語系の小説は、すでに小説ではない、と森村氏は言い切っている。
ただし私小説においては、それほどプロットを重要視しない。私小説とは、森村氏の言葉を借りれば自己の内面を掘り下げ、身辺に題材を求める作品。
小説のジャンルには、私小説、社会小説、風俗小説、時代・歴史・伝記小説、恋愛小説、軍事小説、ミステリー、SF、ホラーなどがある。