小説

『なれのはて』加藤シゲアキ 一枚の絵と無名の画家の謎やその一族の人生に迫る【書評】

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この記事では、加藤シゲアキさんの小説『なれのはて』について、そのテーマや登場人物、物語の魅力をさまざまな角度から掘り下げていきます。

なれのはて 加藤シゲアキ・著

なれのはて(加藤シゲアキ, 講談社)の表紙
出典:Amazon

書誌情報

著者:加藤シゲアキ
出版社:講談社
発売年月:単行本 2023年10月, 電子書籍 2023年10月
初出:「小説現代」2023年10月号
ページ数:単行本 448ページ

紙書籍

電子書籍

一枚の絵と無名の画家の謎やその一族の人生に迫る

加藤シゲアキさんは、2020年11月刊行の長編小説『オルタネート』(新潮社)が吉川英治文学新人賞を受賞し、直木賞候補にもなったことで、小説家としての注目度が確実に上がったことであろう。そして、3年ぶりの長編小説『なれのはて』が、講談社の小説誌『小説現代』2023年10月号に発表された。単行本としての刊行は10月25日。『なれのはて』は、重厚なテーマを扱うミステリー仕立ての作品。年齢や性別を問わずに関心を持った人が多いのではないだろうか。

加藤シゲアキさんは、講談社からの依頼を受けた時点で、今回はミステリー小説にするという前提で構想を練ってきたとのこと。そして、一枚の絵と無名の画家の謎に迫ると同時に、その一族の人生にまで踏み込んでいく。舞台は、現代と第二次世界大戦時中およびその前後を行き来する。

さらに自身のタレントとしての活動経験を生かし、また自身のルーツとして母親の出身地である秋田に関心を持ち、精力的に取材活動に勤しんだことで、本作のリアリティーや深みが増した。他にも、著作権問題が本作のキーワードのひとつになっていて、タレントや作家としての活動および法学部卒の知見や関心が反映されているようだ。

物語の中心人物である守谷京斗は、キー局の報道局に所属していたが、とある事情でイベント事業部への異動を命じられた。その職場で自ら守谷京斗の指導役に名乗りを上げたのが、年下の吾妻李久美という女性。吾妻李久美は、なかなか通らない自分が立案する企画を成立させたいという一心で、守谷京斗に協力してほしいと相談し、助言を仰ぐ。

その際に、吾妻李久美は祖母の形見のひとつであるアクリル画のスマホ画像を見せた。この絵が好きで、とても思い入れがあるようだ。作者を尋ねると、絵の裏にISAMU INOMATAという筆記体のローマ字が書かれているが、インターネット検索などで調べただけでは見つからない。

吾妻李久美は、イサム・イノマタで展覧会ができたらと思っているが、どこの誰かもわからないし、たった一枚しかない。しかし、守谷京斗にはこの絵が類まれな作品に思え、「無名の天才『イサム・イノマタ』~たった一枚の展覧会~」という企画を思いつく。ただし、実現するためには、著作権問題をクリアする必要があり、社内で企画を通さなければならない。

本作では、第二次世界大戦における日本本土への最後の空襲のひとつとされる土崎空襲のことが取り上げられている。土崎空襲は、ポツダム宣言の受託が決定する直前、1945年(昭和20年)8月14日 午後10時半頃から15日未明にかけて、秋田市土崎地区を標的にアメリカ軍によって行われた空襲で、死者は250人以上、負傷者は200人以上とされる。土崎地区には油田や製油所、港があった。大規模空襲であり、民間人の被害も大きかったようだ。

日本本土への攻撃としては、広島と長崎への原爆投下や、東京大空襲、沖縄戦などについて語られることが多いが、日本各地で土崎空襲のような被害があった。アジアや太平洋での激しい戦いがあり、同時に土崎空襲のような状況下で、被害に遭われた民間人も数多。2023年現在も、ウクライナやパレスチナなど世界各地で紛争は続く。

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