この記事では、多和田葉子さんの小説『犬婿入り』について、そのテーマや登場人物、物語の魅力をさまざまな角度から掘り下げていきます。
犬婿入り 多和田葉子・著
書誌情報
書名:犬婿入り
著者:多和田葉子
出版社:講談社
発売年月:単行本 1993年2月
初出:『群像』1992年12月号
学習塾を一人で経営する39歳の独身女性
多和田葉子さんの短編小説『犬婿入り』は、一軒家で学習塾を一人で経営する39歳の独身女性の話。
本作は、第108回芥川賞(1992年下半期)の受賞作です。
多和田葉子さんは、1960年、東京生まれ。
短編『犬婿入り』の初出は、講談社発行の月間文芸雑誌「群像」の1992年12月号。
1993年2月に単行本として講談社から刊行された『犬婿入り』には、『犬婿入り』及び「群像」1992年6月号に掲載された『ペルソナ』の、2編が収録されています。『ペルソナ』は、受賞はしませんでしたが芥川賞候補作となりました。
犬婿入りとは、キタムラ塾の北村みつこ先生が子供たちに話した民話で、犬がお姫様と結婚する話です。北村先生は39歳の独身女性。多摩川沿いの古くから栄えていた南区で、一人で学習塾を経営しています。その塾には、北区の新興住宅地から小・中学生の子供たちが通っています。子供たちは、キタムラ塾をキタナラ塾という愛称で呼びます。キタムラ塾には妙な噂がありますが、子供たちに人気があるため、大抵の母親たちはあまり気にしないようにしました。
ある日、太郎と名乗る男が、突然、北村みつこの家に現れ、住み着いてしまい、二人の奇妙な同棲生活が始まります。太郎は犬のような性癖を持っています。北村先生が子供たちに話した犬婿入りを想起させるような出来事です。
舞台は日本の現代社会ですが、性に関することなどがメルヘンのような世界観で書かれている印象を受けました。
それから小説『犬婿入り』には、一文が長いという特徴があります。書き出しの「昼下がりの光が ~(中略)~ 午後二時。」の一文は222字です。この冒頭の一文は、公団住宅の静まりかえった午後二時についての表現です。更に次の一文も長く305字。ただ読点はどちらかというと多め。冒頭の222字の中に、読点は8つあります。この小説では、こういった文体が続きます。