評論・随筆・その他

『日本語の作法 しなやかな文章術』中村明 研究成果を踏まえた文章読本【書評】

この記事は約3分で読めます。

「文体論は文学と言語学との架け橋とされる」という、本書の「はじめに」に書かれている一節が、中村明氏の研究を物語っているかもしれない。

中村氏は、大学の文学部、大学院の文学研究科を経て、文学を言語として研究する文体論・表現論の道に進まれた。その後、中村氏は国語国立研究所に入り、現在は国語学者として大学の教授職に就かれている。

もう一方の文学については、実作者との出会いにより考察を深められてきた。中村氏は、作家訪問の企画でインタビュアーを務められてきた方である。こういった経歴をお持ちであるので、作品論や作家論的な話にも素直に納得してしまう。本書は、これまでの研究成果を踏まえながら、集大成としての文章読本を目指されてそうだ。

本書の構成は、「序章 よき書き手となるには」、「Ⅰ 表現のたしなみ」、「Ⅱ 表現のもてなし」、「Ⅲ 表現のしかけ」、「Ⅳ 描く」、「Ⅴ 余白」、「終章 表現の奥に映る人影」。

序章には、「文章上達の秘訣」「読むのは他人」「書く側でできること」「人柄が伝わる」の4つの事柄が語られ、文章上達の秘訣については唯一無二の存在ではないと、まとめられている。きちんと構想が固まらないと書き出さない人もいるし、あれこれ考えずに書き始める人もいる。私はどちらかというと後者。また、一気に書いてしまう人、つかえながらも粘り続ける人、行き詰ったら放り出し、休んでから書き継ぐ人、というように人によってまるで違う。

有効な書き方は無数にあるが、効果はひとそれぞれ。文章の世界では、万病に効く特効薬はなく、絶対的な文章作法はない。私もこういった考えに共感を覚える。名文と言われる作品も、無心で書いた結果として評価されたと考えるのが妥当であろう。そして、まずは読み手の負担を減らすための、基本作法が身についているのかという点検作業から始めるのが堅実。

こういった話の流れから、文学に限定しない日本語の作法が具体的に語られてゆく。「Ⅰ 表現のたしなみ」においては、「1 ひらがな・漢字・カタカナを使いこなす」から始まり、「日本語は文字が多彩」「和語の表記」「外来語の表記」「漢語の表記」「代用漢字」「用字の感触」「異例表記の効能」「漢字は意味のヒント」という事柄について書かれていた。

「Ⅰ 表現のたしなみ」には1から19までがあるが、「Ⅱ 表現のもてなし」には1から8まで、「Ⅲ 表現のしかけ」には1から10まで、「Ⅳ 描く」には1から4まで、「Ⅴ 余白」には1から3まである。日本語の作法に関することが一通り語られているように感じた。

中村氏は、谷崎潤一郎、三島由紀夫、丸谷才一ら作家の書いた「文章読本」を別にすると、文章作法書の類はほとんど手にしなかったらしい。なぜなら、著者が当然マスターしているのであろう理論がどんなに素晴らしくても、文章に読者をひきつける力がなければ説得力がないからだ。

日本語の作法 しなやかな文章術/中村明
出典:Amazon
タイトルとURLをコピーしました