この記事では、村上龍さんの短篇小説集『トパーズ』について、そのテーマや登場人物、物語の魅力をさまざまな角度から掘り下げていきます。
トパーズ 村上龍・著
書誌情報
書名:トパーズ
著者:村上龍
出版社:KADOKAWA/村上龍電子本製作所
発売年月:単行本 1988年10月/文庫 1991年11月/電子書籍(Kindle版) 2019年12月
ページ数:角川文庫 241ページ
紙書籍
電子書籍(Kindle版)
都市の暗部で生きる女の子達
村上龍さんの短篇小説集『トパーズ』は、1988年に角川書店から刊行された。1982年から1988年にかけて、「月刊カドカワ」(角川書店)のほか、「小説すばる」(集英社)、「マリ・クレール」(中央公論社)、「文藝」(河出書房新社)、「海」(中央公論社)の4誌に掲載された短篇が収録されている。
短篇小説集『トパーズ』には、表題作の「トパーズ」のほか、「公園」「受話器」「鼻の曲がった女」「紋白蝶」「ペンライト」「子守り歌」「サムデイ」「OFF」「イルカ」「卵」「バス」の、全部で12篇が収録されている。短篇「公園」に関しては「夢の舌」を改題しているが、その他の短篇の題名は雑誌掲載時と同じである。
収録されている短篇は、都市を生きる若い女性達、特にコールガールなどの風俗嬢を題材にした作品が多い。その他には、ナンパされ酷い目に遭う女子高生、過激な濡れ場を演じさせられる女優などの話がある。
全体的にSM嬢などの現実を赤裸々にそして過激に描く作品が目立つ。作品に登場する風俗嬢達は、どの作品でも共通して、容姿に劣等感があったり、ノイローゼ気味だったりする、女の子ばかりである。作品にも登場人物にも、知的さや華やかさや美しさなどを感じさせない。過激で、衝撃的な展開となり、女の子達が酷い目に遭うことが多い。
表題作の「トパーズ」は、SM嬢の女の子「あたし」の視点で語られている。文章は一文が長く読点も少ない。
この短篇集に収録されている他の短篇に関しても、一文が長く句読点が少ない作品が多い。その傾向は、風俗嬢の視点で語られる短篇において、特に強まっている。
こういった語り口調にすることで、女の子達の切迫した状況や不安定な心理状態、混乱状態などが、強く伝わってくる。客や風俗店のオーナー、その他の登場人物とのやり取りや、一つひとつの場面を、風俗嬢の立場で描いている。
村上龍さんはあとがきの中で次のように述べている。
私は、彼女達が捜しているものが、既に失われて二度と戻って来ないものではなく、これからの人類に不可欠でいずれそれは希望に変化するものなのだと、信じている。
都市を生きる彼女達が、これからも勇気を持って、戦い続けていくことを、私は願っている。(一部抜粋)