小説

『パン屋再襲撃』村上春樹 高度資本主義社会を生きることの違和感【書評】

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この記事では、村上春樹さんの小説『パン屋再襲撃』について、そのテーマや登場人物、物語の魅力をさまざまな角度から掘り下げていきます。

パン屋再襲撃 村上春樹・著

パン屋再襲撃(村上春樹, 文春文庫)の表紙
出典:Amazon

パン屋再襲撃

著者:村上春樹
発行:文藝春秋
発売日:単行本 1986年4月、文庫本 1989年4月、文庫本新装版 2011年3月、電子書籍 2016年10月
ページ数:240ページ(文庫判)

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高度資本主義社会を生きることの違和感

村上春樹さんの初期の短編集『パン屋再襲撃』(文藝春秋, 1986年)には、6編が収録されています。表題作のほか、「象の消滅」「ファミリー・アフェア」「双子と沈んだ大陸」「ローマ帝国の崩壊・一八八一年のインディアン蜂起・ヒットラーのポーランド侵入・そして強風世界」「ねじまき鳥と火曜日の女たち」。

表題作の「パン屋再襲撃」は、結婚して二週間ばかりの夫婦が空腹解消のため、パン屋を襲撃する話。ただし、実際に襲撃したのはパン屋ではなく、午前二時半の東京のマクドナルドです。なぜ再襲撃かというと、前作「パン屋襲撃」(早稲田文学, 1981年10月号)を受けてのこと。

夜中に同時に目を覚ました夫婦。二人とも空腹感に襲われます。共働き夫婦で、二週間前に結構したばかりということもあり、冷蔵庫には食べ物がありません。主人公の「僕」が、オールナイトのレストランを探そうという提案をしますが、妻はそれを拒否します。

そして、「僕」は思わず、10年前に相棒と二人で、商店街の平凡なパン屋を襲撃したことを口に出してしまいます。その頃の「僕」と相棒は、ひどく貧乏でした。

これは、社会秩序への反抗であり破壊ですが、夫婦二人は高度経済成長を遂げた日本の中間層。主人公の「僕」は、襲撃する意味について疑問を抱きながら、結局は妻に促されて実行してしまいます。高度資本主義社会という時代背景や社会システムへの、村上春樹さんの批判精神も反映されているのでしょう。

短編集『パン屋再襲撃』に収録されている作品群には、高度資本主義社会という時代において、違和感を抱きながら生きざるを得ない現代人の姿が描かれていると感じました。

「象の消滅」は、象舎から象が消えてしまう話です。経営難を理由に閉鎖された小さな動物園から、町が老齢の象をひきとって飼育していたのですが、この象が突然姿を消してしまいました。

「ファミリー・アフェア」 は、主人公の「僕」が、妹から婚約者を紹介される話。偏狭な性格の「僕」は、その男性をあまり好きになれません。それを察知していた妹は、苛立っているようです。

「双子と沈んだ大陸」は、わかれた双子の女の子を写真雑誌で見かけるという話。撮影場所は六本木のはずれに開店したディスコティックの店内。雑誌を手にとったのはまったくの偶然で、喫茶店のマガジン・ラックにあった一カ月遅れの写真雑誌。「僕」は、ウェイトレスの許可を得て、そのページを切りとって持ち帰ります。

「ローマ帝国の崩壊——」は、日曜日の午後の出来事で、主人公の「僕」は一週間ぶんの日記をつけています。「僕」は毎日の出来事を簡単にメモしておき、日曜日の午後にきちんとした文章にまとめています。

「ねじまき鳥と火曜日の女たち」においては、結婚生活や夫婦の関係性が描かれていました。主人公の「僕」は、妻に促されて行方不明の飼い猫を探すのですが、結局見つからず妻に理不尽に非難されます。この短編の中では、知らない女性から卑猥ないたずら電話がかかってきたり、バイクから落ちて怪我をした高校一年の女の子と知り合ったりします。

なお、短編「ねじまき鳥と火曜日の女たち」をもとに、長編小説『ねじまき鳥クロニクル』の「第1部 泥棒かささぎ編」の冒頭が書かれました。

パン屋再襲撃(村上春樹, 文春文庫)の表紙
初出誌

「パン屋再襲撃」 マリ・クレール 1985年8月号
「象の消滅」 文學界 1985年8月号
「ファミリー・アフェア」 LEE 1985年11・12月号
「双子と沈んだ大陸」 別冊小説現代 1985年冬号
「ローマ帝国の崩壊・一八八一年のインディアン蜂起・ヒットラーのポーランド侵入・そして強風世界」 月刊カドカワ 1986年1月号
「ねじまき鳥と火曜日の女たち」 新潮 1986年1月号

書誌情報

書名:パン屋再襲撃
著者:村上春樹
発行:文藝春秋
発売日:単行本 1986年4月、文庫本 1989年4月、文庫本新装版 2011年3月、電子書籍 2016年10月
ページ数:240ページ(文庫判)

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