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『希望の糸』東野圭吾 ‐ 悲しくぞっとする殺人事件の経緯【書評】

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この記事では、東野圭吾さんの小説『希望の糸』について、そのテーマや登場人物、物語の魅力をさまざまな角度から掘り下げていきます。

希望の糸 東野圭吾・著

希望の糸(東野圭吾, 講談社)の表紙
出典:Amazon

書誌情報

書名:希望の糸
著者:東野圭吾
出版社:講談社
発売年月:単行本 2019年7月/文庫本 2022年07月
ページ数:単行本 354ページ/文庫本 400ページ

悲しくぞっとする殺人事件の経緯

東野圭吾さんの著書『希望の糸』は、2019年7月に講談社から刊行された書き下ろしの長編小説で、「家族」をテーマにした物語。

本作は、加賀恭一郎シリーズに登場する松宮脩平刑事が主人公のスピンオフ作品である。松宮刑事は、加賀恭一郎の従弟。加賀も作中に登場し、松宮にアドバイスを与える。

殺人に至った経緯と衝動的な犯人の行動には、ぞっとしたし悲しくもなった。
辿り着いた結末は、驚くべきものであった。
信じられない出来事と不運が重なった事件。

動揺していた殺人犯は、人を信用できなくなっていた。
真実を知っていれば、起こらなかった事件であったと思う。
言葉の解釈の食い違いにより、事件が起きてしまった。

人の心理というのは、複雑。
それぞれの心の内にあるのだから。

人間性に優れていたが、相手の見極めと判断を誤ったのだろうか。
悪意はなかった。
冷静な相手であれば問題はなかったはず。
人を感動させるための言葉が、悪意に受け止められた悲劇。

生い立ちと人生が、衝動的な犯行の原因になっていることも見逃せない。

犯人と被害者に限らず、動揺したときの登場人物たちの態度は異なった。
自分とまったく同じ考えの人間というのはそうはいない。
それは夫婦や家族であっても同じなのであろう。

プロローグは汐見家の日常的な朝。
父親の汐見行伸、母親の怜子、娘の絵麻、息子の尚人の四人家族。
絵麻が小6で、尚人が小4。

怜子の実家は新潟県長岡市。
毎年秋、怜子が子供たちを連れて里帰りするのは恒例行事。

その年、怜子は仕事の都合で休みを取れなくなった。
絵麻は尚人と二人だけで行くといいだした。

それに怜子は乗り気になった。
心配する行伸も、渋々と認めた。
そして絵麻と尚人は怜子の実家へ。

行伸が仕事の打ち合わせを終えた時、大きな地震があった。
震源地は新潟。

絵麻と尚人の二人は被災した。

生き甲斐をなくした行伸と怜子。
生活は空虚で味気ないものとなった。
怜子は自宅に閉じこもり、みるみる痩せていった。

行伸は怜子に提案した。
子供を作って育てようと。

そして二人は不妊治療のクリニックを訪れた。
その時の怜子の年齢は40歳前後。
院長は、見込みはあると力強くいいきった。
その言葉は頼もしく響いた。

プロローグでは体外受精という言葉がでた。
事件に関係しそうだ。

ここまでがプロローグである。
その後の章分けは、1から30まで。

途中、不妊治療に通っていた、もう一組の夫婦の話が出る。
やはり今回の事件に関係する。

「1」は場面が大きく変わる。
料亭旅館「たつ芳」の玄関。
そこは石川県金沢市。

女将の芳原亜矢子が、ブルガリア人の夫婦を見送る場面から始まる。
亜矢子の父親・真次は「たつ芳」の先代だが、末期癌患者であり死期が近い。

そんな中、亜矢子は弁護士の脇坂から重大な話を聞かされた。
脇坂は、亜矢子の祖父母の代から付き合いのある弁護士。
真次は遺言公正証書を作っていた。
公正役場で作成された遺言書の場合、存命でも開封できる。

遺言書の最後のページには、あまりにも思いがけない事が書かれていた。

「2」もまた、場面が大きく変わる。
「弥生茶屋」という、目黒区自由が丘の喫茶店。
殺人事件の現場だ。

被害者は花塚弥生、51歳。
背中にナイフが刺さっていた。

彼女はこのカフェの経営者。
離婚していて独り暮らし、子供はいない。
店と店主である弥生の評判は良く、常連客が多いもよう。

所轄の警察署に特別捜査本部が開設された。

事件現場に臨場した刑事のひとりが、松宮脩平。
松宮の所属は警視庁捜査1課。
松宮がコンビを組む所轄の刑事は、長谷部という20代の巡査。

遺体発見から約4時間後の1回目の捜査会議。
松宮が担当に割り振られたのは、鑑取り捜査。
主に被害者の人間関係などを洗う。

初動捜査の報告では、争った形跡はなかった。
顔見知りだとすれば、松宮たちが犯人に辿り着く可能性は高い。

捜査を始めて間もなく、松宮の携帯電話に、2年前に住んでいた部屋の不動産会社から、突然の電話があった。
芳原亜矢子が、松宮を探していた。

殺人事件の真相とは別に、松宮の生い立ちに関することも、徐々に明かされていく。

「3」からは、加賀恭一郎が登場する。
加賀は主任。松宮たちのリーダー。
加賀と松宮は従兄弟。

スマートフォンの中身を解析し、被害者との関係を割り出し、松宮たちが当たる。
松宮たちは、被害者と顔見知りの人物への聞き込みを始めた。

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