この記事では、金原ひとみさんの短編小説集『アンソーシャル ディスタンス』を紹介します。
アンソーシャル ディスタンス 金原ひとみ・著
書誌情報
書名:アンソーシャル ディスタンス
著者:金原ひとみ
出版社:新潮社
発売年月:単行本 2021年5月/文庫本 2024年1月/電子書籍 2024年1月
ページ数:単行本 288ページ/文庫本 368ページ
Cコード:C0093(日本文学小説)
初出
金原ひとみさんの『アンソーシャル ディスタンス』には、5編の短編小説が収められています。いずれの作品も初出は文芸誌『新潮』。収録されている5編の題名と掲載号は次の通りです。
- ストロングゼロ(Strong Zero) 2019年1月号
- デバッガー(Debugger) 2019年8月号
- コンスキエンティア(Conscientia) 2020年1月号「アンコンシャス」から改題
- アンソーシャル ディスタンス(Unsocial Distance) 2020年6月号
- テクノブレイク(Technobreak) 2021年1月号
若いの男女の閉塞感や恋愛
本書は第57回谷崎潤一郎賞受賞作。テーマは恋愛と性と命について。あるいは閉塞感や死生観といったもの。内容は少し過激。
2、30代の男女の閉塞感や恋愛をテーマにした作品集であるが、新型コロナウイルス感染症の流行が始まってから発表された、「アンソーシャル ディスタンス」と「テクノブレイク」の2編に関してはパンデミックをモチーフとして取り入れている。
また本書は女性主人公が内面を告白するような表現形式である。
表題作「アンソーシャル ディスタンス」では、男性側の視点も織り交ぜながら、二人が意思疎通を図るための、心の動きが描かれていた。
5編は恋愛や家庭での出来事であるが、少し過激な性描写が多い。登場人物は、ビジネスウーマンやOL、学生などという違いはあるが、金原さんが、2004年に第130回芥川賞を受賞された『蛇にピアス』に通じる。
性の営みや自慰行為の描写は生々しく、普段から強い興味や経験?がなくては中々描けない詳細さがあった。メイクや美容などのことも、女性ならではの具体性で綴られている。
本作は2019年から2021年ごろの現代が舞台。2、30代の男女の話だが、登場人物が使いそうなネットスラングを多用している。中二病の漢字表記も厨二病であった。金原さんは1983年生れだが、そういった種類の日本語にも強いようだ。本書は第57回谷崎潤一郎賞受賞作であるが、時代の流れを感じた。