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『クスノキの番人』東野圭吾 ‐ 不運を嘆いていた青年の成長【書評】

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この記事では、東野圭吾さんの小説『クスノキの番人』について、そのテーマや登場人物、物語の魅力をさまざまな角度から掘り下げていきます。

クスノキの番人 東野圭吾・著

クスノキの番人(実業之日本社/東野圭吾)
出典:Amazon

書誌情報

書名:クスノキの番人
著者:東野圭吾
出版社:実業之日本社
発売年月:単行本 2020年3月/文庫本 2023年4月
ページ数:単行本 456ページ/文庫本 496ページ

不運を嘆いていた青年の成長

東野圭吾さんの『クスノキの番人』は、2020年3月に実業之日本社より刊行された書下ろしの長編小説。ファンタジー的な要素が強い作品である。好みがあると思うが、読後感がよい。不運を嘆く一人の青年が成長してゆく物語でもある。

月郷神社には御神木のクスノキがある。このクスノキに願い事をすれば叶うという噂があり、老若男女を問わず訪れる。巨大で神秘的なクスノキを一目見ようと、遠方から訪れる人も多いようだ。

この神社の由来は不明。いつ誰が、どういう目的で建てたのかについては、記録が残っていない。柳澤家の敷地にあるので、代々、彼らが管理している。宮司は別の神社の方に兼務してもらっているが、名ばかりで神事が行われることはない。

境内の奥に小さな神殿があるが形だけ。賽銭箱も置いていない。

神殿から少し離れたところの小屋が社務所。護符の類は扱わず、御朱印にも対応せず、おみくじすら置いていない。社務所というのは建前で、実質的には境内の管理人室。

また境内の管理は二の次で、管理するべき一番の対象はクスノキ。

境内の脇にある繁みの奥へ進むと、太古から鎮座する巨大なクスノキがある。

主人公の直井玲斗は、「クスノキの番人」として月郷神社の管理人をしている。

実は、月郷神社の管理を始める一カ月ほど前、玲斗は警察の留置場にいた。罪状は、住居侵入、器物破損、窃盗未遂。忍び込んだトヨダ工機は、彼が一年ほど働いていた会社。

トヨダ工機は、中古の工作機械を扱うリサイクル業者。玲斗は社長にクビを宣告された。理由は機械の欠陥を客に漏らしたこと。玲斗はインチキせずに誠実に商売したかったと食ってかかった。だが玲斗は、お金と引き換えに機械の欠陥を客に教えていた。社長はそれを知っていた。

刑務所行きを覚悟していた時、思いがけないことが起きた。弁護士を名乗る人物が接見に現れたのだ。だが、誰が弁護士に依頼したのかがはっきりしない。そして依頼人からの伝言は、無事に釈放されたら命に従うのならば、弁護士費用を支払うという内容だった。しかも命ぜられる具体的な内容を教えてくれない。

被害者との示談が成立し、玲斗は釈放された。

そして弁護士に依頼し費用を支払ってくれた相手と対面する。60代ぐらいの女性であった。
差し出された名刺には、「ヤナッツ・コーポレーション 顧問 柳澤千舟」と書かれていた。
玲斗の記憶にはないが、彼女は伯母だと告げる。

千舟は、玲斗の母親とは年齢差が22歳の異母姉妹でることや、玲斗の祖母から孫が警察に逮捕されたという連絡があったことを話した。そして弁護士費用の代わりに従ってもらうという約束の中身が判明した。

「あなたにしてもらいたいこと それはクスノキの番人」

玲斗は月郷神社の社務所に寝泊まりすることになった。
仕事中は作務衣を着る。昼間の仕事の大半は掃除である。

昼間は境内への立ち入りが自由。
大抵は散歩で訪れる近所の老人。ジョギングコースに組み込んでいる人もいるようだ。

それ以外は、クスノキが殆どの人々のお目当て。

悪戯などに注意を払い、頻繁に見回らなければならない。
カメラのシャッターを押してくれと頼まれたら気前よく応じる。仕事のうちと千舟からいわれている。

御神木のクスノキでのお祈りのやり方を訊かれたり、願掛けを依頼されたりすることもあるようだ。千舟からは、その伝説がいつ頃できたかわからない、といわれた。そのため、玲斗も答えようがない。

伝説は、月郷神社のクスノキに願掛けをすればやがて叶うというもの。地元の人間だけ知る言い伝えだったが、インターネットの普及に伴い、パワースポットとして広く知られるようになった。

訪れる人が増えたが、中にはおかしな人もいる。例えば落書き。クスノキの幹に願い事を書けば夢が叶うというデマが拡散したこともあった。その際は、臨時で警備員を雇った。

かくして管理人を常駐させる必要がでてきた。昼間の管理を依頼した男性が辞めたので、代わりの人を探しているときに、千舟は玲斗のことを聞いたのだ。

そして重要なのは、夜中の仕事、クスノキの番人の役目であった。これまでは千舟が従事していたその役割が、玲斗に命じられた。

夜中の月郷神社には、クスノキの本当の力を知る人々が祈念のために訪れる。

玲斗が物心ついた時、家族は母親の美千恵と祖母の富美だけだった。妻子がいる男との間にできた子どもで、父親は認知しなかった。

ホステスをしていた美千恵は、玲斗が小学校の低学年だった頃に、乳がんを患い亡くなった。玲斗は地元の工業高校を卒業するまで祖母の富美と暮らしていた。

高校を卒業した玲斗は、食品製造会社に就職し、施設部に配属された。主な仕事は生産ラインで使用される機械の保守点検。

入社して二年目、玲斗が担当していた生産ラインで、異物混入事件が起きた。整備不良と点検ミスという指摘だが、納得できない。効率化を図るために作業員が意図的にセンサーを切っているのを皆が知っていた。原因はほかにも考えられのだから、玲斗は抗議した。

だが黙っていろといわれ、担当部署を変えられた。

職場での冷遇は続き、他の従業員は玲斗から離れていく。

そんな中、高校時代の同級生・佐々木と再会する。佐々木は船橋のクラブで黒服として働いていた。玲斗が職場の不満を打ち明けると、佐々木は店で従業員を募集しているから紹介してもいい、といった。

食品製造会社に辞表を提出した玲斗は、黒服として働き始めた。

ある日、玲斗はホステスの一人を頼まれて部屋まで送っていった。そのホステスは、玲斗を部屋の中に引っ張り込んだ。ホステスに手を出すことは御法度だと入店時にしつこく注意されていた。一旦は逃げようとした玲斗であったが、あっさりと陥落。

店ではいつも彼女のことを目で追うようになってしまう。そしてホステスに手を出したことがばれてしまい、ここもクビに。

その二カ月後にトヨダ工機を見つけ、その一年後に事件を起こし留置場に入れられた。

玲斗は、自分の境遇を不運だと嘆きながら生きてきた。

だが千舟と出会い、クスノキの番人を命ぜられ、成長してゆく。

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