評論・随筆・その他

『若い読者のための短編小説案内』村上春樹 ‐ 大学で行った授業がきっかけで上梓【書評】

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この記事では、村上春樹さんのノンフィクション作品『若い読者のための短編小説案内』について、そのテーマや著書の魅力をさまざまな角度から掘り下げていきます。

若い読者のための短編小説案内 村上春樹・著

若い読者のための短編小説案内(村上春樹, 文春文庫)の表紙
出典:Amazon

書誌情報

書名:若い読者のための短編小説案内
著者:村上春樹
出版社:文藝春秋
発売年月:単行本 1997年10月
文庫本 2004年10月/電子書籍 2015年11月
ページ数:単行本 272ページ/文庫本 256ページ
ジャンル:ノンフィクション
Cコード:C0195(日本文学・評論・随筆・その他)

紙書籍

電子書籍

大学で行った授業がきっかけで上梓

本書は1997年10月に、文藝春秋より刊行された。
文庫化が2014年10月、電子書籍の発売開始が2015年11月であった。

本書は、文藝春秋のPR誌『本の話』の1996年1月号から1997年2月号にかけて連載された文章をまとめたものである。
なおPR誌『本の話』は、2011年9月20日発売の10月号で休刊。
文藝春秋のウェブサイトに移籍した。

目次は次のようになっている。

僕にとっての短編小説―文庫本のための序文
まずはじめに
吉行淳之介「水の畔り」
小島信夫「馬」
安岡章太郎「ガラスの靴」
庄野潤三「静物」
丸谷才一「樹影譚」
長谷川四郎「阿久正の話」
あとがき
付録 読書の手引き

付録の「読書の手引き」を制作したのは、文藝春秋出版部の方。
「読書の手引き」には、6名の作家の事が詳しく書かれている。
村上春樹さんの「文庫本のための序文」「ますはじめに」「あとがき」も、内容が濃いのでそれぞれ読み応えがある。

「文庫本のための序文」には、村上春樹さんの短編小説との関わり方について書かれている。
短編小説を書いたり、読んだり、翻訳したりすることが、作家としての勉強、とのこと。

短編小説は、ひとつの実験の場であり、可能性を試す場でもある。
長編小説ではできないことが、短編小説ではできる。

そして本書には、村上さんなりの短編小説の読み方が書かれている。
それから村上さんは、自身が文芸評論家でないことも付け加えている。
文芸評論のように読まれることに抵抗があるようだ。

「ますはじめに」では、どのような経緯と目的でこの本が書かれたのかという事情が語られている。
村上さんは、日本文学よりもアメリカ文学からの影響が大きい作家。
日本回帰というわけではなく、自然と日本の小説を読み始めたそうだ。

1991年にアメリカのプリンストン大学に招かれ、大学院の授業を持ったことも関係している。
村上さんは、1991年から1993年にかけて、日本文学を教えることになった。
授業方針として、テキストとしての小説をじっくりと学生たちと一緒に読み込んで、ディスカスするという結論に達した。
その時に取り上げたのが、第二次世界大戦後に文壇に登場した、いわゆる「第三の新人」と呼ばれている作家たち。

講義では、文学研究者でも評論家でもなく、文学を専門的に説明する言葉や文学理論をほとんど知らないまま、「創作本能」を頼りにしたとのこと。
村上さんは、本書もまた文学評論ではない、と述べている。
そして「私的な読書案内」としている。

村上さんは読者対象として、とりあえず過去の日本の小説をあまり系統的に読んだことのない、10代後半から20代前半くらいの若者を念頭にした。
ただし対象を決めた方が取り組みやすかっただけで、便宜的、形式的なものに過ぎないとのこと。

村上さんは、日本の小説の中でいちばん心を惹かれたのは、いわゆる「第三の新人」と呼ばれている人々と、その前後に文壇に登場した作家たち、と述べている。
具体的には、安岡章太郎氏、小島信夫氏、吉行淳之介氏、庄野潤三氏、遠藤周作氏、長谷川四郎氏、丸谷才一氏、吉田健一氏。
遠藤氏と吉田氏の作品を取り上げなかったことについては、あとがきに書かれていた。
遠藤氏の場合、テキストとして適当な短編小説が見当たらなかったというか、中編から長編にかけて本領を発揮する作家だから。
吉田氏については、準備不足による断念。

8名の作家には、共通性のようなものがあるとしても、村上さんはどちらかというと、理屈よりも面白いと思えることが大事、という考え方である。
「頭をひねらせずに、心をひねらせるのが本当に優れた小説」、という信念のようなものをお持ちだ。

読む側にしても、書く側からしても、その方が文学を楽しめるなら、それでいいように思う。

村上さんは、取り上げる作品を半分は有名なものにしたが、あとの半分はそれほど有名ではないものを意識的に選んだそうだ。
が、どれも村上さんの愛読書である。
文芸批評家でも研究家でもないから、好きなものだけを取り上げた、とのこと。

本書執筆の実現に至った直接のきっかけは、アメリカでの滞在。
村上さんはプリンストン大学のあと、タフツ大学でも授業を行っている。
プリンストン大学の東洋学科の図書館には、必要な資料・文献はだいたいそろっており、じっくりと読み込むことができたとのこと。

帰国後は文藝春秋社で、本書を書き上げるために、1年間、ディスカッションのようなものを定期的に行っている。
その様子をテープにとり、文章にまとめたものが、原稿になった。
そのためか、しゃべり言葉になっている。

村上さんが学生や参加者に要求したことは3つ。
この3つは、村上さんが常日頃心がけているポイントでもある。

  • 何度も何度もテキストを読む
  • そのテキストを好きになろうと努力する
  • 頭に浮かんだ疑問点をこまめにリストアップしていく

人付き合いと似たところがあるのかもしれない。
そして村上さんが実際に、6人の短編小説を読み解いたのが本書。

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