この記事では、島本理生さんの小説『ファーストラヴ』について、そのテーマや登場人物、物語の魅力をさまざまな角度から掘り下げていきます。
ファーストラヴ 島本理生・著
書誌情報
書名:ファーストラヴ
著者:島本理生
出版社:文藝春秋
発売年月:単行本 2018年5月/文庫本 2020年2月/電子書籍 2020年2月
ページ数:単行本 304ページ/文庫本 368ページ
ジャンル:エンタメ・ミステリ
紙書籍
電子書籍
普通の初恋ではない、歪められた記憶
長編小説『ファーストラヴ』は第159回直木賞(2018年上半期)受賞作です。島本理生さんは1983年生まれ、東京都出身。
島本理生さんの小説『ファーストラヴ』の主人公は、臨床心理士の真壁由紀という女性です。精神科のクリニックに勤めていて、テレビ番組にゲスト出演することもあります。彼女は、ある事件の被告人を取材し、本人の半生を臨床心理士の視点から本にまとめるという企画を、出版社から持ち掛けられました。
ある事件とは、女子大生・聖山環菜が父親である画家の聖山那雄人を刺殺したとされる事件です。聖山環菜はアナウンサーを志望していました。そしてキー局の二次面接の直後に、父親の職場で事件は起こります。一部報道では、両親にテレビ局への就職を反対されたことが発端になったのでは、という意見が出ています。逮捕後の取り調べで、聖山環菜が「動機はそちらで見つけてください」と述べたとされ、その台詞も話題になっています。実際は多くのことが歪められていたようです。
真壁由紀は拘置所の聖山環菜やその周辺の人々と面会を重ね、夫・我聞の弟で弁護士の庵野迦葉や担当編集者の辻らと共に、本当の動機を探ろうとします。真壁由紀は、報道されているような単純な動機だけが原因ではないことに気づき、聖山環菜の過去に触れ、自身の記憶とも向き合いながら、真相を見きわめるために尽力します。事件の真相が歪められているだけでなく、殺人を犯した聖山環菜の記憶も歪められていました。女性や弱者に対する社会の理不尽さに目を向けさせる小説です。