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『元彼の遺言状』新川帆立 ‐ 剣持麗子のキャラが際立つ本格ミステリー【書評】

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この記事では、新川帆立さんの小説『元彼の遺言状』について、そのテーマや登場人物、物語の魅力をさまざまな角度から掘り下げていきます。

元彼の遺言状 新川帆立・著

元彼の遺言状(宝島社/新川帆立)
出典:Amazon

書誌情報

書名:元彼の遺言状
著者:新川帆立
出版社:宝島社
発売年月:単行本 2021年1月/文庫本 2021年10月/電子書籍 2021年1月
ページ数:単行本 336ページ/文庫本 352ページ
Cコード:C0093(日本文学小説)

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剣持麗子のキャラが際立つ本格ミステリー

主人公の剣持麗子の強烈なキャラが印象的なエンタメ小説。遺言状の内容を知ったときは、どのように辻褄を合わせて伏線を回収するのかと思ったが、きちんと本格ミステリーの形をなしていた。

剣持麗子は、渉外系大手法律事務所に勤めるやり手の弁護士。官僚の父と兄がいるが、彼女は同じ道に進まず、より高収入を目指せるということで弁護士の道を選んだ。金の亡者である麗子は、仕事に情熱的で、クライアントとの交渉力にも長けているようだ。

冒頭は付き合っている男性からレストランでプロポーズされる場面だが、差し出された指輪を見て、単刀直入に不満をぶつける。百万円以下の指輪はいらないらしい。さらに物語が始まって早々に、ボーナスの金額に納得できず、面談中に退職の意向を伝え、所属している法律事務所を辞めてしまう。ほとんど捨て台詞のような言葉を残して去ってしまうような女性だが、それでも弁護士の仕事はしっかりとこなす。

現実において遭遇したら引いてしまいそうだが、麗子の考え方にも一理あるのだろう。おそらく正直な性格でまっすぐなため、こういった言動になるのだろう。

麗子は、快活なだけでなく何といっても頼りになるし、素直で情け深いところもあるので、ヒロインとして好感が持てる。それに、心の中ではお金以外のものも大切にしたいという気持ちがあるようだ。

「私」はという一人称で語られていくが、麗子のキャラクターが色濃く反映されていて、エンターテインメント小説という印象で読み始めた。また本作は、奇妙な遺言状に端を発した遺産相続ものであるが、本格ミステリーとして楽しめた。遺言状の内容が奇抜なので、納得のいく結末になるのだろうかと疑問に思っていたが、辻褄を合わせ、伏線を回収している。犯人を突きとめ、さらなる被害を防ぐクライマックスに関しては、ハードボイルド的でもあった。

本作は、2020年度の第19回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作。単行本化にあたり、加筆修正したうえで、受賞時の題名「三つ前の彼」を改題している。

なお、本作は綾瀬はるかさん主演でドラマ化された。

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