この記事では、柳美里さんの小説『家族シネマ』について、そのテーマや登場人物、物語の魅力をさまざまな角度から掘り下げていきます。
家族シネマ 柳美里・著
書誌情報
書名:家族シネマ
著者:柳美里
出版社:講談社
発売年月:単行本 1997年1月/文庫本 1999年9月
ページ数:単行本 162ページ/文庫本 180ページ
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それぞれの場面が面白い
柳美里さんの短篇小説『家族シネマ』は、第116回芥川賞受賞作。初出は『群像』1996年12月号。1997年刊行の単行本『家族シネマ』には、表題作のほか、『リテール』1996年春号掲載の『真夏』、『小説トリッパー』1996年冬季号掲載の『潮合い』、三篇が所収されている。
短編『家族シネマ』は、主人公・素美の家族と仕事の話で、それぞれの場面が面白い小説であった。
物語のそれぞれの場面に、小説としての面白さを強く感じた。芥川賞の選評では、文学的才能を感じるといった言葉が、数名の選考委員から出ている。家族の本質を捉えているとか、撮影現場での会話と描写が巧みであるといった評価もされていた。
撮影とは、家族全員で出演する、彼らを主人公とする映画の撮影のこと。ドキュメンタリーともフィクションともつかない、画期的な映画とのことであった。主人公・素美の妹・羊子は女優を目指しており、家族映画の企画が持ち上がったのだ。
小説に登場する家族5人は、全員揃って世間ずれしており、特殊である。これは、家族なのだからと考えれば、自然に受け入れられると思う。
ただ、選考委員の評価コメントの中には、家族以外の登場人物を含め、現実感や親愛感を持てないという意見はあった。あと、設定に関しても、無理があり筋の展開が乱暴とか、演劇的とか、反対意見もあった。僕としては、作品全体を通して面白いと思えた。
この小説では、家族映画の話と並行して、主人公・素美の勤め先での仕事のことも書かれている。彼女は会議で、花瓶のデザインを彫刻家・深見清一に依頼することを提案し、了承された。深見清一は、美術界では高名な人物。だが、自宅を訪問してみると……。素美と深見の関係も、読み進めるときに気になるだろう。