この記事では、村上春樹さんの短編小説集『螢・納屋を焼く・その他の短編』(新潮社, 1984年7月)の中から主に小説「螢」について、そのテーマや登場人物、物語の魅力をさまざまな角度から掘り下げていきます。
螢・納屋を焼く・その他の短編 村上春樹・著
書誌情報
書名:螢・納屋を焼く・その他の短編
著者:村上春樹
出版:新潮社
発売年月:単行本 1984年7月/文庫本 1987年9月/電子書籍 2020年12月
ページ数:単行本 184ページ/文庫本 208ページ
ジャンル:文芸作品
紙書籍
電子書籍
『螢・納屋を焼く・その他の短編』に収録の5編
村上春樹さんの短編小説集『螢・納屋を焼く・その他の短編』には、昭和58、9年ごろに発表された5編が収録されている。大ベストセラー長編の下敷きとなった小説『螢』も収録されている。
5編のタイトルと初出は、次のとおりである。
掲載誌一覧
「螢」 「中央公論」昭和58年1月号
「納屋を焼く」 「新潮」昭和58年1月号
「踊る小人」 「新潮」昭和59年1月号
「めくらやなぎと眠る女」 「文學界」昭和58年12月号
「三つのドイツ幻想」 「ブルータス」昭和59年4月15日号
小説『螢』は大ベストセラー長編小説『ノルウェイの森』の下敷き
小説『螢』は、長編小説『ノルウェイの森』(講談社, 1987年)の第2章と第3章の原型だ。
話の筋や構成だけでなく、描写なども、ほぼそのまま使っている場面が多い。ただし、すべて同じというわけではなく、部分的に会話や表現に手を加え、登場人物を増やし、文章を書き足している。読み比べると、エピソードを追加したりブラッシュアップしたりしていることが分かる。
『螢』は短編小説のため登場人物が少なく、「僕」の身に起こった出来事として書かれている。
『ノルウェイの森』では、「彼女」を「直子」とし、「仲の良い友人」を「キズキ」というように名前を付けた。地理学専攻の同居人には「突撃隊」という渾名をつけた。
そして主人公の「僕」の名前は「ワタナベ」。
また、『ノルウェイの森』には「永沢」という先輩が登場するなどの違いもある。「永沢」は東大法学部の学生で、「ワタナベ」よりふたつ上。「突撃隊」と「永沢」は、「ワタナベ」と同じ学生寮に住んでいる。
地理学専攻の同居人は、学生寮の中では少し浮いた存在で、『ノルウェイの森』ではその事が強調されている。良く言えばきれい好きだが、潔癖症。
彼はラジオ体操をすることを日課にしている。そして話すときに吃ってしまう。
同居人は、女の子へのプレゼントにと、「僕」に螢をくれた。だが「彼女」は、「僕」のもとからすでに離れてしまった後だった。
上述した通り、短編小説『螢』は長編小説『ノルウェイの森』の第2章と第3章の原型。『螢』の主人公の「僕」は、彼女と会えなくなり、悲しみや後悔に打ちひしがれる。『ノルウェイの森』ではさらにショッキングな出来事が起こるのだ。