評論・随筆・その他

『創作の極意と掟』筒井康隆 文学論にも納得できる指南書【書評】

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この記事では、筒井康隆さんの著書『創作の極意と掟』を紹介します。

創作の極意と掟 筒井康隆・著

創作の極意と掟/筒井康隆
出典:Amazon

書誌情報

書名:創作の極意と掟
著者:筒井康隆
出版社:講談社
発売年月:単行本 2014年2月/文庫本 2017年7月/電子書籍 2017年7月
ページ数:単行本 315ページ/文庫本 304ページ
Cコード:C0195(日本文学・評論・随筆・その他)

文学論にも納得できる指南書

『創作の極意と掟』(講談社文庫, 2014年)は、小説を書いてみたい人に捧げる、筒井康隆さんのエッセイだ。
序言には「作家としての遺言」とも書かれている。
この本には、ほぼ60年小説を書き続けてきた筒井康隆さん自身の経験と知恵が収められている。
文章読本や小説作法にも分類できるが、筆者の筒井康隆さんは理論書ではないことを強調している。

『創作の極意と掟』の序言には、次のようなことが書かれている。
小説とは何をどのように書いてもよい文章芸術の唯一のジャンルだから、作法などは不要というのが持論。

筒井康隆さん自身は、小説を書き始めたばかりのころ、丹羽文雄さん(1904年-2005年)が書いた「小説作法」というタイトルの本を読んだことがあるそうだ。
丹羽文雄さんの「小説作法」から、小説の何たるかを教わり、文学には厳密な作法はなく、わりといい加減ということを知った、と述べている。

厳密な作法がないのだから、以後、「小説作法」の類のものを一切読まず、「文章読本」の類もほとんど読んでいないそうだ。
ただし文学評論は、さまざまな書物を読んで、何を書くかを考えたとのこと。

その事は、本書の執筆にも活かされているようだ。
例えば、章(項目)のひとつ「遅延」は、ロシア・フォルマリズムという文芸評論の一派が名づけたものである。

現代では何を書くかよりもどのように書くかが重要とされている。
しかし何を書くかが等閑にされてはならない。
それぞれの作家の資質は違うから、自分は何を書くべきかを考えたそうだ。

本書は、創作だけでなく文学研究にも役立つ。
書かれていることが深い。
学者が一般向けに書く文学論の本にも、遜色がないのではと思う。

筒井康隆さんは、作家志望者の文章に助言してきた体験から、小説は少しの助言で傑作になることも多い、と述べている。
そういった体験を文章にして、新人への助言や中堅への示唆を与えることができないだろうか、という考えから生まれたのが「創作の極意と掟」。

真剣に読むと、本書からはさまざまな事を吸収できる。

筒井康隆さんは、『創作の極意と掟』の中で、文章表現に必須の31項目を挙げ、章分けして解説している。
各章(項目)は、筆者の大切に思っている順、またはその時の気分で書く気になった順に並んでいるとのこと。

筒井康隆さんは、本書の刊行にあたり、この本の読み方として次のようなことを述べている。

各章の表題によって自分の知りたいことを求めるかもしれないが、そこに答はないとお考えいただきたい。
いちばん重要だと思う順に書かれている内容を最初から順に読んで行かれることが最善であり、すべてを読まれるならそのどこかに答はある筈だ。

本書の31章(項目)の中には、「人物」の章(項目)がある。しかし、人物を描写する技術を得ようとして、「人物」の章(項目)を開くのはお門違い。登場人物の描写は、創作の根幹に近い重要な要素。エッセイ全体にわたり関連して述べられている。

本書の序言に続く、最初の章(項目)は「凄味」である。
筒井康隆さんのいう小説家の凄味とは、どのようなことであろうか。

筒井康隆さんによれば、小説を書く覚悟を決めたときからそこには凄味があるそうだ。
だから、小説に凄味がなくてはならないと言う必要もないのかもしれない、とも述べている。

小説を書こうと思い立つような人なら、自分しか表現できないものを持っている。
その自信が間違っていても、自信のある書き方には凄味が生まれる。

中には自信が持てない人もいるかもしれないが、その人は自分の正当性を作品のなかで表現しようとする。
この時、あまり正当性がなくちょっとズレがあったほうが凄味は強く出る。
少しまともでない感覚を表現するほうが凄味はある。

小説の中の凄味はたいてい微量であるが、読者に伝わり、小説を読み続けさせる魅力となる。

自分の考え方や表現方法に、小説にする価値があるのかという疑問は、プロの作家にも存在する。
自信の中の不安や疑問こそが作家としての資質。

筒井康隆さんは、だからこそ第三者的立場で小説を客観視できる編集者が存在する、と述べている。
編集者の役割は、小説が世に受け入れられるかの判断をし、作家に自信を持たせることだ。

そして筒井康隆さんは次のように述べている。

ただし編集者と作者の判断が一致しなかった場合、優先されるのはあくまでも作者の側であることは言うまでもない。

自分の考え方すべてに自信満々の人の書いた文章には、凄味がない。
なぜなら自信満々な考えは、誰にでも受け入れることのできる、凡庸で陳腐なことが多いからだ。
それこそ、つまらなさであり、退屈さであり、馬鹿らしさ。
そういったものは、小説として受け入れられることは少ない。

プロの作家ともなれば、技巧により凄味を出すこともある。

この事は、筒井康隆さんのエッセイ『創作の極意と掟』(講談社文庫)の、「凄味」という章(項目)の中で、実例を挙げて解説されている。

最初の章(項目)では、このように小説家の資質に関することが書かれていた。

残りの章(項目)を読み進めていくと、実践で役立つ助言が多々ある。
抽象的なことが書かれているのかと思いきや、読み進めていくと具体的であった。
読み終えると、創作において大切なことを一通り学べたように感じた。

巻末には項目一覧がある。
これは、筒井康隆さんが本書で取り上げた作品や作家、評論家らの一覧である。
「あ行」から「わ行」まで、ずらりと並んでいる。
作品を引用しながら、具体的に解説されているので、実作に活かせることが多い。
筒井康隆さんが、エッセイとして書いた本書の文章自体から学べるのも、魅力といえるであろう。

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