この記事では、サンキュータツオさんの著書『学校では教えてくれない!国語辞典の遊び方』について、さまざまな角度から掘り下げていきます。
学校では教えてくれない!国語辞典の遊び方 サンキュータツオ・著
書誌情報
書名:学校では教えてくれない!国語辞典の遊び方
著者:サンキュータツオ
出版社:KADOKAWA(角川学芸出版/角川文庫)
発売年月:単行本 2013年3月/文庫本 2016年11月/電子書籍 2016年11月
ページ数:単行本 224ページ/文庫本 256ページ
Cコード:C0081
著者のサンキュータツオさんと本書の趣旨
サンキュータツオさんの『学校では教えてくれない!国語辞典の遊び方』は、2013年3月に角川学芸出版より刊行された。タイトルを見ると、”選び方” ではなく、”遊び方” となっている。本書を読むと、国語辞典との付き合い方が変わるかもしれない。
「はじめに」には、国語辞典の選び方、そして遊び方を徹底的に紹介するという、本書の趣旨が書かれていた。また、親しみやすい本になるように、話し言葉らしい表現を採用したとも書かれている。話し言葉のような表現でも、本書の中身は濃い。
サンキュータツオさんは、芸人さんであるが日本語学者であり、大学の講師も務められている。詳しいことは分からないが、いくつかの大学で教鞭を取った経歴をお持ちで、なかでも留学生向けの日本語教育に従事された経験が長いようだ。
サンキュータツオさんは、二百冊以上もの辞書を持っているそうだ。このレベルで書かれている本は、読んでいておのずと気づかされることが多い。私自身は20冊前後の国語辞典を所有しているので、一般的には多い方なのかもしれない。それでもサンキュータツオさんとは、とても比較にならない。というよりサンキュータツオさんは学者だが、私はそうではない。
複数の国語辞典を所有する意義
辞書を買い替えたり増やしたりする必要は、どこにあるのだろうか。一般的な国語辞典、たとえば『新選国語辞典』(小学館)、『岩波国語辞典』、『新明解国語辞典』(三省堂)、『三省堂国語辞典』は7、8年程度の間隔で改訂される。これは言うまでもなく、時代の変化にともない言葉が変化するのでそれに対応するためだ。これを理由に買い替えることがあるかもしれない。
そして、出版社や編者の違いにより特徴や個性が出るので、何冊かを読み比べることにも大きな意義があるのは確かだ。20冊前後の国語辞典を持つと、改訂されること以上に出版社や編者・著者の違いが影響していることに気づく。さらには、特定の事柄を専門とする国語辞典がある。
11冊の辞書をキャラクター化
巻頭には「この本に登場する主な辞書」および「自分だけの一冊がわかる!?オススメ辞書占い」というページが用意された。本書では、11冊の辞書をキャラクター化したうえで、それぞれの特徴を解説している。11冊の中に中型国語辞典は含まれていない。
「オススメ辞書占い」は、YES・NO形式の占いチャートで、辞書の雰囲気や自分との相性を知る手掛かりになるかもしれない。ただし、おまけ程度と考えたほうがよいのではないだろうか。あるいは、読み進めていくうえでの予備知識といったところだろうか。
本書の解説は小説家の三浦しをんさん
本書の解説は小説家の三浦しをんさんが担当されたが、それを読むと「オススメ辞書占い」は辞書選びに役立つと書かれていて、何度も占っているそうだ。人間の心理というのはけっこう変わるものなのだろう。それでも三浦しをんさんは『三省堂国語辞典』か『日本語 語感の辞典』(中村明, 岩波書店)か『ベネッセ表現読解国語辞典』かにたどりつき、結果を受け止めてその一冊を活用するとのこと。
『三省堂国語辞典』は、一般社会人向けの新語に強い小型国語辞典として知名度が高い。『日本語 語感の辞典』は、国語辞典では分からないニュアンスを知るための辞典。『ベネッセ表現読解国語辞典』は高校生が主な対象だが、日本語の理解が深まりそうな一冊だ。
11冊の中から選ぼうとしても……
私の場合、占いはあまり重視していないし、それぞれの小型国語辞典にはそれぞれの良さがあるので、11冊の中から1冊を選ぶのは無理かもしれない。ただし、辞書をキャラクター化して理解を促すという発想は面白いと感じた。国語辞典に対する関心が強いので、キャラクターにも多少の関心を持ちつつ本書を読み進めた。
占いチャートを当てにすると、質問文の解釈の仕方やその日の気分でどうしても辿り着く辞典が変わってしまう。その事が良い方向に進むと、その時の心理状態に適した一冊に辿り着くかもしれない。例えば、最初の質問が「文章を書くときに、同じような言い回しばかり使ってしまう」であるが、最近そのような傾向があったり、表現の幅を広げたかったりするなら、そちらに進むとよいのだろう。
言葉の意味を確認するときには、中型国語辞典を利用することがほとんど。よって、小型国語辞典に関して、特殊な国語辞典を利用する機会が多い。あるいは、読み比べている。また、せっかく20冊以上の国語辞典を所有しているので、その都度、有効利用するという結論に至った。
社会人におすすめなのはやはり中型国語辞典
私が実際に国語辞典で調べるときは、小型国語辞典ではなく中型国語辞典で調べることが多い。特段の理由がなければ中型国語辞典3冊、『広辞苑 第七版』(新村出, 岩波書店)、『大辞林 第三版』(松村明, 三省堂)、『精選版 日本国語大辞典』(小学館)のうちのいずれかを使用する。やはり小型国語辞典よりも情報が充実している中型国語辞典を引いたほうが早いと感じることが多いからだ。
『広辞苑』は、簡潔な表現がしっくりくることと、哲学的に深く掘り下げるなど気づきを得られることが魅力的である。『大辞林』は『広辞苑』より情報量は多いが、一般的な説明が多いように感じた。『精選版 日本国語大辞典』は、情報が充実しているのが魅力といえるだろう。
新語については『大辞林』や『広辞苑』がよいかもしれないが、歴史のある言葉なら『精選版 日本国語大辞典』に敵わないと思う。
小型国語辞典の使い分け
小型国語辞典の中で一般的かつ社会人向けと考えられるのは、『新選国語辞典』、『岩波国語辞典』、『新明解国語辞典』、『三省堂国語辞典』のいずれかだろうか。
『明鏡国語辞典』(北原保雄, 大修館書店)は、高校生を対象としているが、社会人にもおすすめ。場合によっては、上記4冊の国語辞典よりも役立つかもしれない。発行元の大修館書店は、高校の教科書の発行元のなかの一社。
『新選国語辞典』と『明鏡国語辞典』は、正しい日本語を追求する姿勢が感じられるのに対して、『岩波国語辞典』と『新明解国語辞典』と『三省堂国語辞典』は、近年の用例を重視しているように感じる。
『新選国語辞典』と『明鏡国語辞典』は、『広辞苑』『大辞林』『精選版 日本国語大辞典』の3冊の中型国語辞典と併用しても、内容に違和感がない。『新選国語辞典』は、収録語数が第十版で93,910語と多い。『明鏡国語辞典』は、第三版のページ数が1,992ページと、厚みがある分内容が充実している。
『岩波国語辞典』には規範的なイメージがあるかもしれないが、『岩波国語辞典 第七版新版』を使用していると、上述したような傾向を感じる。『新明解国語辞典』は、私が深く知りたいと思う言葉の解説が詳しく、期待に応えてくれることが多い。『三省堂国語辞典』は、収録語数が多く、新語に強い。
言葉を調べるときに国語辞典一冊で解決することもあるが、腑に落ちなければ何冊も読み比べる。国語辞典を20冊前後所有しているので、調べる言葉や目的に応じて使い分けたり、手当たり次第引いて読み比べたりもする。
一般的な国語辞典に加えて、類語国語辞典や漢和辞典、古語辞典、用字用語集、場合によっては百科事典も活用する。さらに、日本語のひとつの領域に特化した『日本語 語感の辞典』や『基礎日本語辞典』(森田良行, 角川学芸出版)、本書では取り上げていない『てにをは辞典』(小内一編, 三省堂)などで調べることも。その結果、しぜんと国語辞典の特徴と奥深い言葉の意味が分かってくる。
国語辞典の面白さが伝わる本
三浦しをんさんとは占い結果は少し異なるが、辞書や文学への関心が強いことに変わりはないと思う。根本的なところで共通点もあるようだ。すでに国語辞典を何冊も所有しているのであればその日の辞書選びに、あるいは数ある国語辞典の中から購入する一冊に迷っているなら、占いも役に立つかもしれないし、面白い。
ただし、本書にも書いてあるが、たとえば本書において著者インタビューコラムもある『基礎日本語辞典』は、特定の事柄を専門とする国語辞典であるため一般的な小型国語辞典を探しているときの一冊目には使えない。『日本語 語感の辞典』も同じことが言える。また、中高生向けの国語辞典や、残念ながら絶版になったり、しばらく改訂されていなかったりする国語辞典もあるので、その点についてはご注意ください。
本書のテーマは国語辞典の面白さについて。個人的には共感できるし、飽きずに読めた。