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『笑顔と筋肉ロボット』山崎ナオコーラ 科学技術の進歩のおかげで性差は縮まる!?【書評】

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山崎ナオコーラさんの短編小説『笑顔と筋肉ロボット』の初出は、月刊誌『すばる』2020年11月号。集英社刊行の短編小説集『肉体のジェンダーを笑うな』に所収。

物語は笹部紬(ささべ・つむぎ)の幼少期から始まる。紬は、小柄で華奢、顔立ちが美人というわけでもない。そういった女の子ということもあり、親からは笑顔と挨拶を大事にし、優しくて明るい大人になりなさい、と言われる。そして、そのように振る舞いながら、成長していく。ただ大人になり、結婚してからも、その考えた方に対する違和感が消えない。

本作のテーマはジェンダー。つまり歴史的・文化的・社会的に形成される性別。性別によって社会から要求される役割、男らしさと女らしさについて。

高校生になった紬は、性差より個人差の方が大きいことに気づく。だが、社会での助け合いでは、性別による線引きをしないと、得意不得意の判断が難しいような気もする。
大学生のときにファストフード店でアルバイトをした。仕事内容は接客とフロア掃除など。そこで健という男性と知り合う。彼は半年早く働き始めた先輩。仕事内容と時給が同じでも、自然と役割分担のようなものが生まれる。好意と感謝により成り立っているのかもしれない。二人は相性が良いようにも思える。
大学を卒業した紬は、家電メーカーに就職し、営業事務の仕事を始めた。一般的に女性を対象とする職種。男女雇用機会均等法が改正されるまで、ハローワークの求人に女性希望とはっきりと記載されていた職業。現在、そのような記載はなくても、採用されるのはほぼ女性であろう。

結婚した紬は、しばらくはこれまで通りに生き、自分に難しいことは夫に頼る。だが、夫にお願いしていた作業も、便利な道具を使えば自分ひとりでできた。そして、最先端のロボット技術にも興味を持ち、ついには手に入れてしまう。性差に悩む必要のない世界は実現するのか。

このように物語は展開していく。作品のテーマはジェンダー。フェミニズム的なことを主張する作品ではないので、男性も女性も共感し、楽しめる作品だと思う。とくに物語の後半では、夫婦の会話に深みを感じたし、ユーモアのセンスにも感心した。

肉体のジェンダーを笑うな/山崎ナオコーラ
出典:Amazon
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